「学びとは何か?」ドキュメンタリー映画『世界のはしっこ、ちいさな教室』を観て考えた 教育の本質と日本の子どもたち【西岡正樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

「学びとは何か?」ドキュメンタリー映画『世界のはしっこ、ちいさな教室』を観て考えた 教育の本質と日本の子どもたち【西岡正樹】

パタゴニアの荒漠とした大地を旅する西岡正樹氏

 

 

◾️「無目的なる旅」と「目的のある旅」

 

 2024年の1月、私は東南アジア4か国(6か国かも)をスパーカブで旅する計画を立てている。これまでも、およそ16万キロ65か国をバイクで旅してきたが、私の旅には「何のために」というものがない。ただ「旅すること」を唯一の目的にしてきたので、時折「何のために旅しているんですか?」と訊ねられることがあるのだが、その度返事に窮した。

 しかし、今回の旅は今までと趣が違う。「東南アジア4か国(ベトナム、カンボジア、タイ、ラオス <シンガポール、マレーシアも入るかも> の小学校を巡ること」を目的にしているので、今度訊ねられたら胸張って応えられるかな。

 とは言うものの、これまでの旅の中で一回だけ、目的を持って旅をしたことがある。2016年、私は10カ月かけて国内の僻地の小学校(65校)をスーパーカブで巡ったことがあるのだ。4565校の小学校をノーアポで巡ったのだが、すべての小学校の先生方は、少々驚きの顔を見せていたものの、とても快く私を受け入れてくれた。だからといって、東南アジアの小学校の先生方も同じように受け入れてくれるだろう、というそんな甘い考えは、今の私にはない。

 

 東南アジアのバイクで学校をめぐる旅を計画している、そんな折に、元同僚から「面白い映画が来ていますよ」という連絡があった。その映画のタイトルは『世界のはしっこ、ちいさな教室』。私は、まず、この題名に魅かれた。内容も分からないのに、これは今の自分にとってタイムリーな映画だと勝手に思い込み、映画スケジュールを調べていると、厚木のミニシアターでわずか1週間だけ上映していることが分かった。あらすじを読むと、今の私にまさしくタイムリーであり、益々興味が湧いたので日程を調整して観に行くことにした。

 

 『世界のはしっこ、ちいさな教室』は、3つの国の3つの小学校が舞台。ブルキナファソ(アフリカ)、バングラディシュ(アジア)そして、シベリア(ロシア)、それぞれの国の僻村にある小さな小学校は、まさしく、私が日本国内で巡ったような僻地の小学校だ。

 私は、ブルキナファソやバングラディシュを旅したことはないが、2011年にシベリアをバイク(250㏄のスクーターPS250)で旅したことがある。夏のシベリアは20度前後まで気温があがり予想以上の暖かさだったが、1日の気温差やその広大な原野と森林には圧倒され、果てしなく続く道には途方に暮れた。「ここで生きていくのは大変だな」と思っていると、イルクーツク(バイカル湖畔の大きな街)で泊まったホステルのスタッフから「本当のシベリアを知りたかったらマイナス30度が当たり前の冬においでよ」と言われたことが、今でも心の中にある。

 そんなことを思い出したのだが、ブルキナファソもバングラディシュも、シベリアと同じように過酷な状況であるのは、想像に難くない。

次のページブルキナファソの識字率は41%。2.5人に1人は字が読めない

KEYWORDS:

オススメ記事

西岡正樹

にしおか まさき

小学校教師

1976年立教大学卒、1977年玉川大学通信教育過程修了。1977年より2001年3月まで24年間、茅ヶ崎市内の小学校に教諭として勤務。退職後、2001年から世界バイク旅を始める。現在まで、世界65カ国約16万km走破。また、2022年3月まで国内滞在時、臨時教員として茅ヶ崎市内公立小学校に勤務する。
「旅を終えるといつも感じることは、自分がいかに逞しくないか、ということ。そして、いかに日常が大切か、ということだ。旅は教師としての自分も成長させていることを、実践を通して感じている」。
著書に『世界は僕の教室』(ノベル倶楽部)がある。

この著者の記事一覧