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かわいそうな寿司屋とその弟子【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』37品目

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」37品目

 

 ところが、ある日、その男子の腕毛がきれいさっぱり剃られていたのだ。きれいさっぱりといっても剃り跡はくっきり残っていて、青々しいというより痛々しい感じ。 

 客に「不潔だ」とでも言われたのか。人の好さそうな大将が「剃れ」と命令したとは思えないし、そんなことを言うぐらいなら最初から採用しないだろうから、やはり客からクレームがあったのだろう。腕毛が濃いことで現実に衛生上の問題があるのかどうかは知らないが、痛々しい剃り跡は清潔感より無情を感じさせた。 

 大将もいろいろ気の毒だが、その弟子もかわいそう。寿司はうまいが店の空気がほんのり気まずい。いや、そう思ってるのは私だけで、ほかの客は気にもしていないのかもしれない。そうでなければ、あんなに自慢話ばっかりしないだろう。 

 結局、私の行動範囲がちょっと変わって、その界隈にあまり足を運ばなくなったこともあり、その店にも行かなくなってしまった。

  この原稿を書くに当たって調べてみたら、店はまだ健在の様子。人の好さそうな大将はお元気だろうか。今度、久しぶりに訪ねてみたい。あのかわいそうな弟子は、たぶんもういないと思うけど。

 

文:新保信長

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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