スパゲティがパスタに変わった日【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』34品目
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」34品目
そしてイタメシブームの象徴となったのが、1989年11月に恵比寿にオープンした「イル・ボッカローネ」。店に入ると店員が「ボナセーラ!」と迎える本場感の演出で一躍人気店となると、同様の店があちこちにできた。そんなイタメシブームのなかで〈刺身は「カルパッチョ」に、カナッペは「ブルスケッタ」に、サンドイッチは「パニーニ」に、スパゲッティは「パスタ」に呼び名が変わった〉と同書は指摘する。1989年とは平成元年。つまり、平成以降生まれにとっては「生まれた時からパスタでアルデンテ」なのである。
令和の今では誰もがご存じのとおり、パスタというのは総称で、長さや太さや形状によっていろんな呼び名がある。スパゲティはその一種で丸い断面のロングパスタのうち直径1.6~1.9㎜程度のものを指す。近所にパスタが売りのイタリアンの店があって、確かに「パスタ!」って感じでうまいのだが、自分の好みからするとちょっと麵が太い。スパゲティより太めのスパゲトーニというやつかもしれない。その分、歯ごたえもありありで、うどんでいえば武蔵野うどんとか吉田うどんとか、ああいう感じ。個人的にはもう少し細めでツルツルしこしこのほうがいい。うどんでいえば、水沢うどんや五島うどんぐらいが望ましい。
そんな私が昼メシでわりとよく行くのが「すぱじろう」だ。近場にあって一人でも入りやすく手軽というのも大きな理由だが、麵の具合が自分の好みにフィットする。麵の量がS・M・Lから選べるのもありがたい。メニューも多彩で、月替わりのおすすめも「そうきたか!」という楽しさがある。チェーン店だし人にお勧めするような店ではないが、日常の食事には十分だ。
運営会社のサイトを開くと最初に出てくるフレーズがまた泣かせる。
〈「パスタ」ではなく「スパゲッティ」というカテゴリへのこだわりと専門性を高め上げ、お客様の満足と笑顔と広げたい〉
そう、「パスタ」ではなく「スパゲッティ」。ついでに言えば「パンツ」ではなく「ズボン」。昭和生まれにはそっちのほうがやっぱりしっくりくるのであった(さすがに今「イタメシ」とは言わないが)。
文:新保信長