インドで大炎上【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』33品目
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」33品目
「食堂生まれ、外食育ち」の編集者・新保信長さんが、外食にまつわるアレコレを綴っていく好評の連載エッセイ。ただし、いわゆるグルメエッセイとは違って「味には基本的に言及しない」というのがミソ。外食ならではの出来事や人間模様について、実家の食堂の思い出も含めて語られるささやかなドラマの数々。いつかあの時の〝外食〟の時空間へーー。それでは【33品目】「インドで大炎上」をご賞味あれ!

【33品目】インドで大炎上
前回、サハリンに行ったときの話を書いた。その次に行った海外がインドである。これまた漫画家の西原理恵子さんとの取材旅行だ。インドを中心にアジア圏を長く取材している写真家の石川武志さんの案内で、男性でも女性でもない「第三の性」と呼ばれるヒジュラの日常と、南インドの小さな村にインド中のヒジュラが大集合するお祭りを取材した。
しかし、しょっぱなからして前途多難。機体のトラブルか何かでエア・インディアのデリー直行便の出発が遅れ、何時間も機内に閉じ込められた。おかげで、まだ離陸もしてないのに機内食を食う羽目に。エア・インディアだけに機内食もカレーである。基本的に出されたものはおいしくいただく人間だし、実際それなりにうまかったが、「なんで今ここでこんなもん食ってんだろう……?」という謎な気持ちにはなった。
あげくの果てにフライトがキャンセルとなり、その夜は空港近くのホテルに宿泊。翌朝、振り替え便に搭乗したが、直行ではなくシンガポール経由で、シンガポールでの乗り継ぎでまた一苦労する。成田で渡された代替チケットがシンガポールまでのものだけで、乗り継ぎ便の分がなかったのだ。受け取ったときにきちんと確認しなかったこっちも悪いが、渡すべきものを渡さないほうがもっと悪いと思う。
そんなややこしい事情を英語ダメ人間の私が航空会社カウンターの外国人相手に説明できるはずもない。「日本語話せる人いませんか?」と拙い英語で聞いてみたが、それ自体が通じてない様子。そうこうしているうちに出発時間が迫ってくる。このまま映画『ターミナル』のトム・ハンクスみたいに空港から一生出られなくなるか――と思ったが、西原さんを密着取材するテレビ番組のスタッフが同行していて、その人に説明してもらって事なきを得た。彼がいなかったらどうなっていたかと思うと、足を向けて寝られない。
結局、ほぼ2日遅れでデリーに到着。よく外国人が日本に来ると味噌だかしょうゆだかの匂いがするというが、インドの空気はほこりっぽくスパイシーだった。西原さんも私も当時すでに40歳。バックパッカーじゃあるまいし、安宿に泊まるのは体力的にもきついということで、日航ホテル(現メトロポリタンホテルニューデリー)に宿泊した。なので、朝食は普通のバイキングだったが、昼食は街中の食堂で食べることになる。そこで何を食べるかといったら、当然カレーだ。