インドで大炎上【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』33品目
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」33品目
ところが、ここで最後の落とし穴が待っていた。酒も入ってゴキゲンで何かの炒めもの的な料理を一口食べた瞬間、口の中がズギャーンと大炎上する。シシトウかと思ってうっかり食べたのが超激辛のトウガラシだったのだ。それはもう辛いとかいうレベルではなく、ひたすら痛い。これが「焼け火箸を突っ込まれたような」というやつか。いや、焼け火箸というより焼け剣山をこすりつけられた感じと言ったほうが近い気がする。
あわてて水を飲んだが、まさに焼け石に水。カラムーチョのおばあさんみたいに顔を真っ赤にして涙目でヒーヒー言ってる私を見て、状況を察した西原さんが「これ食べてっ!」と氷を差し出してきた。インドで生水は飲んじゃダメ、氷もダメと聞かされていたが、そんなこと言ってる場合じゃない。とにかく火を消さなければ、というんで氷をガッと口に放り込み、しばらくモゴモゴやってたら、ようやく少し鎮火してきた。
幸い腹を下すこともなかったが、あのトウガラシは凶悪だった。後にも先にも経験のない最強の辛さ。鎮火後も口の中がちょっとしびれたような状態で、そのあと食べたものの味がよくわからなかった。検索してみたら、北インド産のブート・ジョロキアという品種が辛さランキングで世界3位に入っているので、もしかしたらそれかもしれない(あれより上があるらしいのもすごいが)。
ウィキペディアの記述によれば〈北東インドでは、畑や民家を荒らす野生のアジアゾウを撃退するためにすり潰して柵に塗ったり、対ゾウ用のトウガラシ発煙筒を開発する試みがなされている〉というから、ほとんど化学兵器である。死ななくてよかった。
文:新保信長