サハリンの夜【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』32品目
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」32品目
よし、これでメシにありつける。私と西原さんと鴨志田さんの3人は、地図を頼りにホテルからほど近いロシア料理店に向かった。いや、サハリンなんだからロシア料理なのは当たり前だろ、と思われるかもしれないが、「クロシオ」とか「飛鳥」とかいう名前の店もあったのだ。かつて日本領だったのだから日本料理(風)の店があってもおかしくない。「ソウル」という店もあって、別の日に行ってみたら、そこは韓国料理店だった。
15分ぐらい歩いただろうか。いかにもロシアっぽい「スラヴャンカ」(今調べたらロシアの都市名だった)という店に到着した。席に案内され、メニューを開く。が、そこに並ぶのはロシア語の文字。日本語はもちろん英語表記もナッシング。店の人が何やら説明してくれるが、そんなもん1ミリもわからない。鴨志田さんは英語やタイ語ならいけるクチだが、ロシア語は無理。こうなるともう、英語がしゃべれるしゃべれないは関係ない。どのみち通じないのだから、むしろ開き直りの境地である。
外食で生きてきた人間として、メニューの並びや雰囲気で「このへんは前菜」「このへんはメインディッシュ」というのは何となくわかる。前菜っぽいところとメインっぽいところから2~3品セレクト。あと、周りのテーブルでペリメニ(水餃子)っぽいものを食べてる人がいたので「あれと同じやつ」とジェスチャーで伝える。そして、ロシア料理といえばこれだろうというボルシチを注文したくて「ボルシチボルシチ!」と言ったら、発音はともかくなんとなく通じたらしい(これまた今調べたら、ボルシチはもともとウクライナの料理らしく、とりあえず平和を祈った)。
結果的には、サラダっぽいものとペリメニ、ボルシチ、何かの肉のグリルなどが運ばれてきた。ペリメニとボルシチはそれなりにうまかったが微妙にぬるく、サラダっぽいものはこんな覇気のない野菜は見たことがないというくらいしおしおで、何かの肉はひどく硬かった。そして、なんでもかんでもサワークリームがかかっていた。それでもまあ、異国の地で食べる最初の食事としては、成功の部類に入るだろう。
ただ、そこでもうひとつ問題なのは、お金が文さんから借りた分しかないということだった。メニューに値段は書いてあるが、よその国のお金だと相場の感覚がわからないし、手持ちのお金で足りるかどうかの計算もパッとはできない。テーブルチャージやサービス料があるのかどうか、あるとしてどのくらいなのかもよくわからない。「これで足りる?」「もうちょっと頼んでも大丈夫かな?」と、すっかり往年のテレビ番組『がっちり買いまショウ』状態(若い人知らんわな)。金額オーバーは許されないのでハラハラドキドキしたが、ギリギリ足りたのでホッとした。もしもあのときオーバーしてたらどうなってたのか、足りない分はドルでもいけたのか、今となっては知る由もない。