ゼレンスキー国会演説直前で右往左往する人たち【適菜収】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ゼレンスキー国会演説直前で右往左往する人たち【適菜収】

【隔週連載】だから何度も言ったのに 第14回

ロシア軍の包囲攻撃が続くウクライナ南東部マリウポリ市の幹部は22日までに、攻撃開始後に3000人以上が死亡した可能性があると国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)に述べたとのこと。声明を発表するゼレンスキー大統領(2022年3月21日)

 

■プーチンの飼い犬に敬語を使う安倍晋三

 

 《高須院長の女性秘書や津田大介さんら…愛知県知事リコール署名偽造事件 書類送検等の14人を不起訴処分に》(「東海テレビ」3月17日)という記事に対し、香山リカがツイッターで怒っていた。

《津田さんや私は「リコール署名偽造事件」にはかかわってません。なぜ偽造にかかわってた人といっしょに「14人」と表現されてるのか、理解に苦しみます》

 これは私も記事を読んだときに同じことを思った。オウム真理教のサティアンの壁に立ち小便した奴が、「オウム真理教事件」と一括りにされるような話でしょう。日本のメディア、劣化が止まらない。

    *

 あまりにバカすぎるので昔の記憶が蘇った。

 2015年に東海道新幹線で男が焼身自殺を図り、火災が発生した事件があった。男はガソリンをかぶり火をつけ、巻き込まれた乗客の女性が死亡。乗客と乗員28人が煙を吸うなど重軽傷を負った。そのとき産経新聞をはじめとする一部のアホメディアが「新幹線の安全神話が崩壊」「安全神話に激震」などと書き立てた。説明するのも面倒だけど、新幹線自体が事故を起こしたわけではない。

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「ウラジーミル。ようこそ日本へ。(略)戦後71年を経てもなお、日露間には平和条約がない。この異常な状態に、私たちの世代、私たちの手で終止符を打たなければならない、その強い決意を私とウラジーミルは確認し、そのことを声明の中に明記した。(略)」2016年12月16日、安倍晋三はプーチン大統領と共同記者会見を開き、北方領土について「共同経済活動を行うための特別な制度」創設に向けて交渉を始めることで合意。同時に、平和条約締結への意欲を示した。ところが、2022年3月21日、ロシア外務省は、日本がロシアのウクライナ侵攻に伴う米欧と歩調を合わせて発動した対ロ経済制裁を巡り「日本との平和条約締結に関する交渉を継続するつもりはない」との声明を発表した。

 

 つい最近までプーチンの飼い犬だった安倍晋三という男が《「核抑止の議論」必要 議論もさせないのは「日本の危機」を前に思考停止に陥っている 賢明な政治家や国民は目を覚ましたのでは》などと与太を飛ばしていた(「zakzak」3月12日)。

 いや、核抑止の議論を批判しているのではなくて、思考停止した安倍みたいなバカが中途半端な知識で核抑止の議論をしていることが「日本の危機」だと言っているのにね。

 さらには戦争が始まって興奮したのか、テレビ番組で「私たちが作った国際秩序に対する重大な挑戦だ」とも語っていた。戦後の国際秩序をつくったのは連合国である。夜郎自大とはこのことだ。

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 夜郎自大の語源は「史記」にある。夜郎の君主は、漢の使者と会った際に、自国と漢ではどちらが大国であるかと問うた。大国の漢からすれば、夜郎などは取るに足らない辺境の一小国である。こうして夜郎自大は「身の程を知らず尊大ぶっているたわけ者」を意味する故事成語となった。

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 一部メディアで、ウクライナのゼレンスキー大統領が日本の国会オンライン演説で安倍とプーチンの蜜月関係を批判するのではないかと報じた。これは事前にきちんと説明したほうがいい。蜜月どころか、飼い犬、せいぜい鴨ネギか、歩くATMといったところだと。

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 いや、飼い犬未満かもしれない。それには根拠がある。安倍は2017年2月24日の衆院予算委員会で、プーチンの飼い犬の秋田犬「ゆめ」について、「見た目が結構迫力があったもので、少しこわごわ手を出したところ、ペロッとなめていただいた」と敬語を使っていた。犬の世界にも序列があるのだろう。

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 安倍が近畿大学の卒業式にゲストとして登場し「これからの長い人生、失敗はつきもの。何回も失敗するかもしれない。大切なことはそこから立ち上がること。そして失敗から学べれば、もっとすばらしい」と発言。失敗から何も学ばなかったのが安倍の人生である。そして世の中にはとりかえしのつかない失敗があるという真実も、理解できないのであろう。バカに総理をやらせた結果が、日本の主権を棚上げし、持参金と一緒に北方領土を献上した究極の対ロ売国外交である。

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 立憲民主党の泉健太代表は、ゼレンスキーの演説について《私は日本の国民と国益を守りたい。だから国会演説の前に「首脳会談・共同声明」が絶対条件だ》《演説内容もあくまで両国合意の範囲にすべき。それが当然だ》とツイート(3月16日)。

 これに対し維新の松井一郎が「こちら側はオンラインでできるようにきちんと用意するだけだ。ピントの外れたコメントが一番問題だ」と批判。ピントが外れているのは松井である。泉は国会演説に反対したわけではないし、日本の国益を考えて事前調整するのは当たり前だ。

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 麻生太郎が麻生派例会で、プーチンについて、名指しこそ避けつつも「暴挙に出た独裁者」との表現で厳しく批判したとのこと(3月10日)。「ドイツのワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。誰も気が付かなかった。あの手口に学んだらどうかね」とか言っていた政治家もどこかにいたよね。

次のページ榊英雄監督には安倍とプーチンが主人公の『蜜月2』を撮ってほしい

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適菜 収

てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志との共著『思想の免疫力 賢者はいかにして危機を乗り越えたか』、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、『日本をダメにした新B層の研究』(KKベストセラーズ)、『ニッポンを蝕む全体主義』『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)など著書50冊以上。「適菜収のメールマガジン」も好評。https://foomii.com/00171

 

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