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世界一のヴァイオリンとされる“ストラディバリウス”は楽器か? 美術品か?

数億円という値段がつくヴァイオリンは果たして楽器なのか?

ヴァイオリンに詳しくないひとでも”ストラディバリウス”という名前を聞いたことがある人は多いのではないだろうか。世界でも有名な名工の名であり、なかには数億円という値がつく名器もあるとされる。今宵はこの名器について、少し語っていく。(齋藤真知亜 著『クラシック音楽を10倍楽しむ 魔境のオーケストラ入門』より)

■美術品としてのヴァイオリン

 先日、ある企業が名器ストラディバリウスを購入した際の会計処理にミスがあり、追徴金を課せられたというニュースがありました。ストラディバリウスを楽器と考えていたその企業に対し、国税当局はそれを美術品であると判断し、「税務処理に問題あり」と指摘したということです。

 

 ヴァイオリンが楽器ではないというのは不思議かもしれませんが、ヴァイオリンが美術品だという考え方は納得できます。そもそもどうして1億円以上もするヴァイオリンがあるのかといえば、美術品としての価値が認められているからです。

 

「いくらでも出すから、希少な名器を手に入れたい」と考えるコレクターが世界中にいるのです。16世紀の中ごろにヨーロッパで生まれたヴァイオリンは、少しずつ改良されながら今のような形になりました。名器の代名詞になっているストラディヴァリウスやグァルネリ(※)というのは、ヴァイオリン製作家や作られた工房の名前です。子どもの落書きのような絵でも、作者がピカソだったら億の値段が付くのと同じで、どんなに古くて傷がたくさんあるように見えても、たとえば名工ストラディヴァリウスが作ったとなれば、数億円という値段が付きます。ただし、このクラスの美術品的なヴァイオリンになると、高額だから音色がいい、音量が大きいとは限りません。なぜならヴァイオリンには「使ってこそ生きる」という面があるからです。

 

 ヴァイオリンは「擦弦楽器」といい、基本的に弓で弦をこすって演奏します。音を出すための一番重要なパーツは木でできた胴体の部分です。胴体内部は空洞で、弦の振動がその胴体に伝わることによって楽器全体が振動し、表面にあるf字型の穴から共鳴音が生まれる仕組みです。

 胴の真ん中がくびれているのは、弓が胴に当たるのを防ぐためですが、当たるのを完全に防ぐことは難しく、表面の塗装が剝げたり、板に傷が付いたりすることもあります。だから演奏家はみんなマメに手入れしながら弾いています。

次のページ一方、多くのコレクターは…

KEYWORDS:

『クラシック音楽を10倍楽しむ 魔境のオーケストラ入門』
著者:齋藤真知亜

 

“N響"の愛称で知られる、NHK交響楽団。1986年に入団し、今日までヴァイオリニストとして活躍してきた著者による、初めてのオーケストラ本です。どうしても堅苦しく、格式が高いイメージで捉えられがちなクラシックの世界を、演奏する側の気持ちを交えて分かりやすく解説します。演奏時の楽団員それぞれの役割や、ステージ上で感じる緊張など、オーケストラの一員である「オケマン」目線で本音を綴り、コンサートや音色の新しい楽しみ方を提案。「知れば知るほどもっと奥へと分け入りたくなる、秘境にも似た魅力」と著者が語る、クラシックの世界をお楽しみください。

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齋藤真知亜

さいとうまちあ

NHK交響楽団 第一バイオリン・フォアシュピーラー

東京都出身。東京藝術大学附属音楽高校を経て、東京藝大を首席卒業。1986年5月1日N響入団。1999年から毎年開催している自主企画リサイタルのシリーズ「Biologue」「Quattro Piaceri」、バルトーク全曲演奏に挑んだ「ヴィルトゥオーゾ・カルテット」や、民族楽器によるコンサートにも注目が集まっている。また、ジュニア・フィルハーモニック・オーケストラでは、山本直純氏の遺志を受け継ぎ、指揮・指導を行っている。大学や個人レッスンのほか、個人でもアンサンブルなどを率いて活動中。


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