「これ以上は無理です」と言えないあなたへ伝えたい大切なお話【沼田和也】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「これ以上は無理です」と言えないあなたへ伝えたい大切なお話【沼田和也】

『牧師、閉鎖病棟に入る。』の牧師が語る優しい夜話

 

 拙著『牧師、閉鎖病棟に入る。』で、わたしは同じ部屋の16歳の少年のことを回想している。彼は妹を金槌でなぐり、措置入院となっていた。他にも家庭環境に重い問題を抱えた少年や青年たちが、そこにはいた。わたしから見て、彼らは正直言って、放置されているように見えた。もう何年も前から入退院を繰り返しているであろう彼らは、読み書き計算、つまり義務教育で最低限学ぶはずの知識を得る機会を奪われていた。彼らがわたしとの出会いのなかで「勉強したい」と言いだしたとき、わたしは病院側に学習スペースの許可を求めた。だが病院側からは「ここは学校ではありませんので」の一言だった。彼らはただ病院で若いエネルギーを持て余しながら時間を潰し、きつい副作用のある薬を投与されている日々を過ごしている。そんな彼らが、今後どうやって社会に適応することができるのかと思うと、わたしは気が重くなったのであった。

 修復的司法という言葉がある。法を犯した者が服役中に、自分はなにをしてしまったのか、相手がどれほど傷ついたのかを、カウンセリングなどをとおして自覚するプロセスを踏む。自己に閉じていた元犯罪者を、他者のいる世界へと開いていくのである。それは元犯罪者独りでできることでもないし、そのプロセスが必ず成功するという保証もない。

 だが、わたし自身、ある意味で修復的司法に近い体験をして、社会に復帰したという自覚がある。わたしはなぜキレてしまったのか。なぜ、ストレスを溜め込んでいるという自覚を持つことができなかったのか。そのすべての答えを得られたわけではない。今でも模索は続いている。ただ、疲れやストレスを封じ込めて誰にも言わないのではなく、封じ込めようとするのはなぜなのかと自分自身に問い、周りの人にも打ち明けることができるようには、ようやくなれたのである。

 

文:沼田和也
 

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沼田和也

ぬまた かずや

牧師

日本基督教団 牧師。1972年、兵庫県神戸市生まれ。高校を中退、引きこもる。その後、大検を経て受験浪人中、1995年、灘区にて阪神淡路大震災に遭遇。かろうじて入った大学も中退、再び引きこもるなどの紆余曲折を経た1998年、関西学院大学神学部に入学。2004年、同大学院神学研究科博士課程前期課程修了。そして伝道者の道へ。しかし2015年の初夏、職場でトラブルを起こし、精神科病院の閉鎖病棟に入院する。現在は東京都の小さな教会で再び牧師をしている。ツイッターは@numatakazuya)

 

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  • 沼田 和也
  • 2021.05.31