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増加する子どもたちの不登校、そして自殺にどう向き合うべきか

第100回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-


 残念なことに最新のデータを見る限り、不登校のみならず自殺にまで至る児童が増えている。その原因は、果たしてコロナ禍などの事象によるものなのだろうか。それとも、もっと根源的な理由によるものなのだろうか。


■最新版・児童生徒に関する調査結果

 小中高生の自殺が過去最多となった。
『読売新聞オンライン』(10月14日付)によれば、文科省は「家庭で居場所のない子供たちの救いの場になっていた学校がコロナ禍で休校になり、行事も中止や延期になった影響もある」とみているそうだ。
 新型コロナウイルス(新型コロナ)禍がなければ、小中高生の自殺はもっと少なかったということなのだろうか。子どもたちにとって学校が「救いの場」になっている、と文科省は強調したいのかもしれない。

 文科省が「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」を公表したのは、10月13日のことである。
 それによれば2020年度に自殺した小学生は7人、中学生が103人、高校生は305人となっている。1年間で自殺者した児童生徒の数は、合計で415人にのぼっている。
 前年度の2019年度が317人であり、98人も増えている。調査が始まったのは1974年度からだが、74年度は277人、10年後の84年度で189人である。そして、いまからは10年前の2010年度で156人である。

 2020年度に比べれば少ない数で推移しており、20年度が初めて400人を超えている。この推移を見るだけでは、2020年度は特筆すべき年だと言っていい。
 とはいえ、新型コロナの影響で学校に来られなくなったのが原因という文科省の説明に素直に肯くことはできない。新型コロナ前の2018年度は332人だし、その前年の2017年度は250人である。
 74年度や84年度に比べれば、かなりの増加と言える。新型コロナ前から児童生徒の自殺は増えているのだ。

 同調査では、自殺した児童生徒の置かれていた状況についても調べている。それを見ると、はっきりしている項目では「家庭不和」が53人(全体の12.8%)でトップとなっている。続いて8%を占めているのが、「父母等の叱責」である。両方を合わせると20%超ということになるが、複数回答なので単純に合計して考えるわけにはいかない。
 それでも、家庭不和や父母からの叱責で家に居づらかった子どもが学校に来られなくなって居場所を失った、と言えなくもない。

 しかし自殺した児童生徒の置かれていた状況でダントツでトップなのは、「不明」なのだ。どういう状況に置かれていたのか分からない児童生徒が218人、全体の52.5%を占めている。家庭に居づらかった子どもが学校に行けなくなり、居場所をなくしてしまったというストーリーはちょっと強引な気がする。

■子どもの悩みや不安を学校は把握できているか

 そもそも、この置かれていた状況を答えているのは、自殺した児童生徒ではない。文科省の調査に学校が答えている結果である。
 だから、項目がはっきりしている「家庭不和」にしても、どの程度を学校が把握していたかによって意味合いが違ってくる。それにも関わらず、家庭不和の言葉のニュアンスだけで、「自殺の原因」としてしまうのは乱暴ではないだろうか。

 いちばん多い回答が「不明」であることが示しているのは、児童生徒個々について、学校は深くは知らなかったのではないかということである。個々のことを知り、深く関わっていれば、自殺の原因ももっと明確に把握されていなければならないはずである。それができていないからこそ、「不明」がダントツに多くなっているのではないだろうか。

 自殺と関係してくるだろう「児童生徒が置かれていた状況」を、学校側は充分に把握していたとは思えない。自殺した児童生徒にしてそうなのだから、それ以外の児童生徒については、なおさらかもしれない。
 そんな学校が、子どもたちにとって居場所になっているのだろうか。そんな学校に新型コロナの影響で来られない時期があったとしても、「居場所を失った」として自殺にまで至るだろうか

 文科省の調査では、不登校児童生徒についても調べられている。2020年度の小学校の不登校児童数は6万3,350人と、6万人の大台を突破している。前年の19年度が5万3,350人なので1万人近い増加である。1991年度の1万2,645人に比べれば、激増という表現でもよいだろう。
 中学校でも、2020年度の不登校生徒は13万2,777人を数えている。19年度に比べれば4,855人の増加であり、1991年の5万4,172人からは2倍以上にもなっている。

 学校が子どもたちにとって「安心できる居場所」ならば、こんなに不登校は増えないはずである。むしろ「学校に行きたくてたまらない子どもたち」が増えていいはずである。
 しかし、不登校の児童生徒は大幅に増えている。学校は子どもたちの居場所になっていると考えているようだが、その居場所から逃げ出す子どもたちが後を絶たないのが現状でもある。
 こうしたことから、「学校が子どもたちの居場所」になっているのかを、真剣に問い直す必要がありそうだ。

 学校に来られなくなってため、居場所を失って子どもたちが自殺する…というストーリーで納得しているようでは、ますます学校から逃げ出す子どもは増えるばかりだろう。子どもたちが心から「自分たちの居場所」と言える学校にならなければ、学校そのものの存在が問われることになる。いや、すでに問われていることを、文科省も学校も再認識すべきではないだろうか。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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