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倒産か身売りか…そのときジョブズが下した決断とは?

スティーブ・ジョブズのリーダーシップを読み解く。

■ジョブズは「最高の企業づくり」を見据えていた

 そこには2つの疑問があります。一つは「身売りか倒産か」という企業をなぜジョブズは世界一の企業へと成長させることができたのかであり、もう一つは2011年にジョブズが亡くなった後もなぜアップルは成長し続けることができたのか、です。

 ジョブズは暫定CEОに就任して以降、iМacに始まり、iPоdやiPhоne、iPadなど「世界を変える」ほどの商品を次々と発表しています。こうした圧倒的な商品をつくることでアップルのブランド価値は他社を圧倒するものとなり、結果、アップルが急成長を遂げたというストーリーはよく分かります。

 まさにイノベーターでありビジョナリーでもあるジョブズの真骨頂と言えますが、当時から言われていたのは「ジョブズ亡きあとのアップルはどうなるのか?」でした。カリスマを失った企業が凋落へと向かうというのはよくあることです。その経営者が偉大であればあるほどその反動なのか、企業は魅力も方向性も失ってやがては市場から消え去るか、「過去に繁栄した大企業」になり下がるだけなのです。

 ところが、アップルは凋落どころかさらなる成長を続けています。もちろんCEОティム・クックの経営手腕もあるわけですが、それ以上に今日のアップルを見れば見るほど生前のジョブズが力を注いでいたのが「最高の商品づくり」と同時に「最高の企業づくり」だったことがよく分かります。かつてこんな言葉を口にしていました。

「魂を持ち合わせた100億ドル企業にしたい」

「僕は、いつまでも続く会社をつくることに情熱を燃やしてきた。すごい製品をつくりたいと社員が猛烈にがんばる会社を」

 すぐれた商品はいきなり誕生するわけではありません。そのためにはアイデアが生まれやすい環境、アイデアを拾い上げるシステム、アイデアを迷子にすることなくしっかりと形にする仕組みがなければ決してすぐれた商品をつくり上げることはできません。20代のジョブズは驚くほど革新的な企業が10年、20年後には夢も希望もロマンもないただの大企業になり下がる様子を見て、アップルはそんな企業にはしたくないと思い続けてきました。

 今日、日本にもたくさんの大企業がありますが、そのいずれもかつては小さな企業であり、ベンチャー企業だったのです。そこには創業者たちの志やがんばりがあったからこそ今日があるわけですが、企業というのは大きくなればどうしてもその巨大さゆえにベンチャースピリットを失い、イノベーションを起こせなくなりがちです。

 だからこそ今もイノベーティブな企業として成長し続けるアップルはすごいのです。そのすごさをもたらしたものこそがジョブズの「すごい製品づくり」以上の「すごい企業づくり」だったのです。そのすごさをまとめた『スティーブ・ジョブズ世界を興奮させる組織のつくり方』からジョブズのリーダーシップをご紹介します。

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桑原 晃弥

くわばら てるや

1956年広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。人材採用で実績を積んだ後、トヨタ生産方式の実践と普及で有名なカルマン株式会社の顧問として、『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』(成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』(PHP新書)などの制作を主導した。著書に『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP文庫)、『ウォーレン・バフェット成功の名語録』(PHPビジネス新書)、『伝説の7大投資家』(角川新書)、『トヨタのPDCA+F』(大和出版)など。バフェット関連書籍多数。


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  • 桑原 晃弥
  • 2018.09.20