議論の勝敗だけにこだわる「知識人ごっこ」の輩を実名で糾弾する【中野剛志×適菜収】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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議論の勝敗だけにこだわる「知識人ごっこ」の輩を実名で糾弾する【中野剛志×適菜収】

中野剛志×適菜収 〈続〉特別対談第5回

 

■MMT(現代貨幣理論)と藤井聡

 

中野:新型コロナって恐ろしいもので、新型コロナを軽視する「知識人」を嘲笑うかのように、次々と変異していますね。若者でも重症化するようになったり、感染力が強くなったり。新型コロナは、その発生が未知の事態だというだけでなく、自分でさらなる未知の事態を次々と作り出しています。感染症や公衆衛生の専門家も、変異や状況の変化に合わせて、臨機応変に対応していかなくてはならない。「間違っていたら筆を折る」なんて言っていたら、筆が何本あっても足りない。これこそ、まさに、本当の危機というものです。だから、本物の感染症のプロで、「間違っていたら筆を折る」なんて大見え切った人は一人もいなかったわけです。もっとも、ワクチンの開発が奇跡的に早く成功したので、光明が見えてきましたが、もしワクチン開発が遅れていたら、もっと深刻な危機になっていたのでしょうね。

 ところが、藤井氏は、202012月、「WeRise」という団体のイベントに参加し、講演で「コロナがあったら、飲んでもいい」などと発言しています。コロナって、ビールのコロナじゃないですよ。挙句の果てには、ギターをかき鳴らし、飛沫飛ばして「Oh,Yeah,Oh,Yeah」などと叫んでいるのです。ツイッターで流れて来たその動画を見た時は、言葉を失いました。

 これは、さすがに限度を超えているでしょう。藤井氏が「Oh, Yeah, Oh, Yeah」と歌っていた頃、すでに大阪の医療機関は逼迫していました。そして、その後、大阪は、医療崩壊状態になったんですよ!藤井氏とつるんでいる連中は、この「Oh,Yeah, Oh, Yeah」の動画を見ても平気なんですか?

 

適菜:WeRise」って、武田邦彦や内海聡といった陰謀論者が集まっているトンデモ集団でしょう。ウェブサイトでは、《新型コロナウイルス感染症はメディアが作り出した怪物》などと謳っていた。藤井聡は新型コロナという危機に対峙できないだけではなく、自分自身の危機にも対峙できなかった。都合の悪い現実を直視せずに、自己欺瞞を続けてきたわけですから。例えば、結構いろんな人が指摘しているのですが、藤井はMMT(現代貨幣理論)の話をずっとしていましたよね。ところが、新型コロナの補償の話になると、それを引っ込めてしまう。

 

中野:そうなんですよ。それは、MMTの理解に基づけば補償が可能だということになると、経済的損害を理由にした自粛批判ができなくなるからでしょうね。でも、MMTを引っ込めるなら、永久に引っ込めておいてもらいたいですね。あんな「Oh,Yeah」男に「MMT!」とか言われると、MMTまでトンデモ扱いされてしまうから、迷惑です。

 この件について、改めて説明すると、こういうことです。

 まず、MMTというのは、ごく簡単に言うと、「自国通貨を発行する政府は、変動相場制の下では、財政破綻することはなく、財源の制約はない」という理論で、それが正しければ、日本政府は、財政危機ではないということになります。本当は、もっといろいろあるのですが、MMTを議論するのは、この対談の本題ではないので、詳しくは、例えば『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』をご覧ください。

 さて、新型コロナを早期に収束させるには、ロックダウンなどによって人流を激減させる必要があるが、そうすると経済が止まって、人々は経済的に困窮し、経済苦による自殺者も増えかねない。でも、厳しく人流を減らす措置を講じても、MMTが正しければ、日本政府は財源の懸念がないわけだから、補償や金銭的支援などを十分に措置できる。したがって、経済的な打撃は大幅に緩和できることになります。しかも、外出制限措置が厳しければ、措置の期間はより短くて済むので、経済的ダメージもより小さくできると言われています。実際、人流の「8割削減」を唱えた西浦博先生は、休業補償が必要だと言っていた。

 もちろん、西浦先生は、ご自身も承知されているように、経済や財政の専門家ではない。そこでMMTの出番で、MMT論者は「休業補償の話でしたら、財政的に可能ですよ」と論じるべきなのです。そうやって、感染症の門外漢でも、新型コロナ対策に貢献できる。不肖私めも、微力ながら、国会議員の先生方にそう申し上げてきました。

 補償つきの自粛については、佐藤健志さんも藤井氏に直接、説いています。ところが、藤井氏は、MMTを唱えていたにもかかわらず、昨年7月、「財政政策が行われるとは思わない」と断じ、さらに感染症の専門家でもないのに「半自粛」を唱え、挙句の果てに、尾身先生と西浦先生を公開質問状で断罪するという挙にでた。で、先ほど言ったように、昨年12月にはコロナを飲んでもいいと発言し、人前でギターをかき鳴らし飛沫飛ばして「Oh,Yeah, Oh, Yeah」ですからね。

 その「Oh,Yeah, Oh, Yeah」の頃、大阪では医療機関がすでに危機的でしたが、四月にはついに医療崩壊し、死亡者や重症者が大勢出た。すると、藤井氏は「病床を増やさないから、医療崩壊するんだ」などと批判したのです。でも、財政政策が行われないというなら、どうやって病床を増やすんだよ。

 それに、新型コロナの感染者って、指数関数的と言われるように、急激に増えるものなんでしょ。だったら、感染者数自体を抑制しないと、病床を増やしても追い付かないような事態になる可能性があったわけです。しかも、病床だけではなく、医療従事者も確保する必要があるのですが、それはもっと難しい。だから、感染拡大を防ぐために、感染症の専門家や医師たちが必死に警鐘を鳴らしていたというのに、藤井氏は警鐘ではなくギターを鳴らして「Oh,Yeah, Oh, Yeah」とマスクもしないで叫んでいたわけです。それで感染が拡大して医療崩壊したら「病床増やせって、言っただろ」って、いったい何なんですか、この人は。

 

適菜:本当にご都合主義ですね。

 

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●目次

はじめに———デマゴーグに対する免疫力 中野剛志

第一章
人間は未知の事態に
いかに対峙すべきか

第二章
成功体験のある人間ほど
失敗するのはなぜか

第三章
新型コロナで正体がバレた
似非知識人

第四章
思想と哲学の背後に流れる水脈

第五章
コロナ禍は
「歴史を学ぶ」チャンスである

第六章
人間の陥りやすい罠

第七章
「保守」はいつから堕落したのか

第八章
人間はなぜ自発的に
縛られようとするのか

第九章
人間の本質は「ものまね」である

おわりに———なにかを予知するということ 適菜 収

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中野剛志/適菜収

なかの たけし てきな おさむ

中野剛志(なかのたけし)

評論家。1971年、神奈川県生まれ。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“TheorisingEconomicNationalism”(NationsandNationalism)NationsandNationalismPrizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)、『日本経済学新論』(ちくま新書)、新刊に『小林秀雄の政治哲学』(文春新書)が絶賛発売中。『目からウロコが落ちる奇跡の経済学教室【基礎知識編】』と『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)が日本一わかりやすいMMTの最良教科書としてベストセラーに。

 

 

適菜収(てきな・おさむ)

作家。1975年山梨県生まれ。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム近代的人間観の超克』(文春新書)、『安倍でもわかる政治思想入門』、清水忠史との共著『日本共産党政権奪取の条件』、『国賊論 安倍晋三と仲間たち』『日本人は豚になる 三島由紀夫の予言』(以上、KKベストセラーズ)、『ナショナリズムを理解できないバカ』(小学館)、最新刊『コロナと無責任な人たち』(祥伝社新書)など著書40冊以上。「適菜収のメールマガジン」も配信中。https://foomii.com/00171

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