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「なぜかくも日本人は小粒になったのか?」最大の理由。【福田和也】

福田和也「乱世を生きる眼」


ミャンマーの軍事クーデターで民間人は400人以上が犠牲になった。香港では中国全人代の決定により、民主的な選挙は行われにくくなった。シリア内戦は10年続き依然終息は見えず、死者40万人、難民600万人に…。国際情勢は時々刻々と不安定になり、南シナ海、東シナ海に限らず不穏な軍事行動や軍事訓練が世界各地で起こっている。アメリカの覇権が地に堕ち、中国とロシアがそれに取って代わろうと帝国主義的な動きをしているのが今なのだろう。さて日本はどんな選択肢をもち、どんな道を歩もうとしているのか? その任に耐えうる国運を担える人物はいるのだろうか? 初選集『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』(KKベストセラーズ)が話題の文芸評論家・福田和也氏は「なぜかくも日本人は小粒になったのか」とすでに平成の時代に嘆いていた。さらに加速度的に「日本人がどんどん小粒になって」いくことをも…。その原因について考察した論考。やはり歴史を学ばず、歴史をおろそかにしてきたことが衰退の根源ではないのか。


 

シリアでは反体制派の大規模集会が2021年3月15日に開かれた。

 

■戦死にたいする覚悟がいらなくなった

 

 

 日本人が小粒になった第一の原因は、七十五年にわたって戦争がなかった事でしょう。

 こういう言葉遣いが、反発を招くのは承知しています。

 もちろん、戦争がないことは、よい事に決まっている。

 平穏でいるのが、何よりだという事はその通りでしょう。

 昭和初年以降の、とりあえず武力でかたをつけてしまえばいい、というような発想に囚われた軍人や政治家、言論人の有様は、誠に嘆かわしいことでありました。

 ですから、いくら私が非常識であっても、戦争がよいことだと思っているわけではないし、起きればよいと思っているわけでもありません。

 しかしまた、一方で、戦争が人間に教えるもの、もたらすものもたくさんあります。

 逆説的にではありますが、平和の尊さを、一番深刻に教えてくれるのは戦争でしょう。

 生命の大事さも同様です。

 平凡な暮らしの大事さ。日々働けること、家族と共にあること、勉強できることがどれだけ貴重なことか。戦争は教えてくれるでしょう。

 戦争は、また「死」と否応なく対面させます。

 自らが戦場で死ぬ可能性を、戦前の男子はーーその社会的、身体的状況において濃淡はあったでしょうがーー、常に意識せざるをえませんでした。

 死がいずれにしろ痛ましい事であるとしても、老衰と病死と事故死しかその想像力の範囲にない現在の日本人とは、人生観、死生観が、かなり違った事は云うまでもありません。

 また、女性たちも、自分の家族、父や兄弟、夫が戦地で死ぬかもしれない、という「覚悟」をつねに迫られていた。

 戦死にたいする覚悟、というようなものを私たちがせずにすむようになった事、誠に幸せな事でしょう。

 

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福田 和也

ふくだ かずや

1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院修士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部教授。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子賞、2002『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、06年『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『昭和天皇』(全七部)、『悪と徳と 岸信介と未完の日本』『大宰相 原敬』『闘う書評』『罰あたりパラダイス』『人でなし稼業』『現代人は救われ得るか』『人間の器量』『死ぬことを学ぶ』『総理の値打ち』『総理の女』等がある。

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