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新社会人必読。礼儀正しく「生意気」であることが世渡りの基本【福田和也】

福田和也の対話術


変異種のコロナ感染の第4波が現実のものとなりつつあるなかだが、4月からは新入生と新入社員が誕生する。そんな彼らがもっとも心配していることのひとつが、「どうやってコミュニケーションをとって人間関係を築くか」ということだという。その悩みはおそらく入社10年20年経っても変わらないはずだ。しかし、対話には良好な関係を結ぶ基本があると語りつづけ、いま話題の著書『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』(KKベストセラーズ)でも披露しているのが文芸評論家の福田和也氏だ。これまでも対話の本質を語ってもらったが、今回は「大人の対話の態度」基本のきを、新入生と新入社員に送る。


 

 

 

■良い「生意気」と悪い「生意気」

 

 

 礼儀正しく、かつ生意気である、ということは、精力に満ちた若者が、基本的に身につけるべき姿勢であり、態度なのです。

 すでに申しあげた通り、礼儀正しいというのは、けして単純に挨拶や、言葉遣いだけの問題ではありません。無論そうした要素は大事なものですし、そこで間違っているのは話になりません。

 けれど、それ以上に大事な礼儀の本質をついつい見逃しがちです。礼儀とは、相手にたいして十分な配慮をすること、というとごく当たり前に聞こえるかもしれません。しかし「配慮」というものを、多くの人は簡単に考えすぎています。「配慮」を何かしら親切だの、気配りだのといったふるまいと混同してしまっている(それはそれで、大事なものですし、難しいところもありますが)。

 「配慮」とは何よりも、相手の身になった発想をすることにほかならないのですが、その配慮が、平板な丁寧さに終わらないためには、一面的なものではない、相手にたいする知識と関心が必要です。つまりは、相手がどのような人間であり、いかなる状況、境遇にいるか、何に誇りをもち、何に屈託しているのかということについて十分に知悉(ちしつ)し、それだけではなく深い共感をもっていること。それこそが、配慮とも云うべきであり、また礼儀の本質である、ということにもなります。

 生意気であれ、と云うと躊躇(ちゅうちょ)する人が多いかもしれません。たしかに日本の社会では、とくに緊密な人間関係によって組織された職場等においては、生意気であることは、けして有利ではない、むしろ不利である、ということは、多少とも集団生活の機微にたいして意識的な人は、誰でも認識していると思います。

 私も「生意気な人」になってはいけないと思います。というと矛盾していると思いますか。

 私が云う「生意気な人」というのは、組織の中、特に課とか班といった「小規模の集団」において、自分のおかれている境遇や評価にたいする不満、反発を、自身の「分」を意識的にでも、無意識的にでもはずれることで、表明しようとする人たちです。

 こういう「生意気」というのは、単純に自分の憤懣(ふんまん)を、集団の空気、秩序を紊乱(びんらん)したり、汚染したりすることによって晴らす、ネガティブなものです。それは周囲に迷惑をかけ、不快な思いをさせるばかりではありません。かような行為に身をまかせることによって、自らを冒瀆(ぼうとく)するとともに、自分の立場そのものを損なうものです。

 ちょっと厳しすぎたでしょうか。たしかに、「生意気」な人は可愛げがないわけではありません。しかし「生意気」が、可愛いものであり続けるためには、かなりの努力、意識的な努力が必要です。それに、こうした職場での「生意気」は、自分の周辺、先輩とか上司にたいして発揮されるものであって、「生意気」なようで「生意気」ではない、と云うと解りにくいでしょうが、要するにたいして上位でもない相手にたいして発揮されている「生意気」にすぎないのです。

 大学で教員をしていますから、毎年たくさんの若い人と知り合うことになります。特にゼミで新しい学生と出会うのは大きな楽しみですね。

 私のゼミでは、最初の自己紹介をする時に、ここしばらくで読んだ本、見た映画、聴いた音楽などから、気に入ったものを何でも一つ挙げてもらいます。そうすることで、その人がどんな人となりかが解るし、またその後の会話の接ぎ穂にもなる。

 こういう場合、もちろん正直に云ってもらって構わないのですが、自己演出の場とすることも可能です。その演出の目的が聞き手、ここでは私ということになりますが、私の関心を引くことであれば、いかにして印象づけるかが演出の眼目になる。そこで、「音楽はグレート3、本はボルヒャルトの評論集を読みました」などという話を聞くと、「コイツ、生意気な」と思うけれどやはり関心をもたざるをえない。

 

 

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福田 和也

ふくだ かずや

1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院修士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部教授。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子賞、2002『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、06年『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『昭和天皇』(全七部)、『悪と徳と 岸信介と未完の日本』『大宰相 原敬』『闘う書評』『罰あたりパラダイス』『人でなし稼業』『現代人は救われ得るか』『人間の器量』『死ぬことを学ぶ』『総理の値打ち』『総理の女』等がある。

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