日本が凋落していった原因は3つ。「バブル崩壊」「冷戦終結」もう一つが…【中野剛志×黒野伸一】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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日本が凋落していった原因は3つ。「バブル崩壊」「冷戦終結」もう一つが…【中野剛志×黒野伸一】

この国はどうなる!? ポストコロナとMMT【対談第2回】

 

エドマンド・バーク(1729-1797)。イギリスの政治思想家、哲学者、政治家。「保守思想の父」として知られる。

 

■“秘伝のタレ型”改革であれば、“継ぎ足し型”改革でいい

 

 

黒野:イギリスの政治哲学者のエドマンド・バークという人がフランス革命を批判しましたが、私の理解では、バークは改革自体を全否定しているわけではなく、スクラップ&ビルドは良くないと。

 

中野:そうです。

 

黒野:実際、フランス革命は収拾がつかなくなった。ジロンド派とジャコバン派の間に争いが起きて、そこにマクシミリアン・ロベスピエール(革命家)が出てきて、反逆者は全部斬首にした。それでナポレオンが出てきて。これは絶対君主制を倒すために革命を起こしたわけですから、ナポレオンは国王を名乗れない。で、何を名乗ったかといえば皇帝を名乗った。結局、革命自体が無駄だったんじゃないかと。でもそこから絶対王政、絶対君主制がすごく時間をかけて共和制民主主義になった。バークは“秘伝のタレ型”改革であれば、“継ぎ足し型”の改革であればいいんだと、そういう風に言っているのかなと思ったわけですよ。

 

中野:その通りです。

 

黒野:そういう理性的にものを考えることができる人が世の中にいっぱいいればいいんだけど、ところがどっこい、人間って熱くなる。何かターゲットを見つけるとそこを集中攻撃してしまう。だから、変わらないんじゃないんですかね。

 

中野:バークのような意味での保守というのは日本には殆どいなくて、一応、自民党や自民党の支持者が自分たちのことを「保守」と名乗っていますけど、この人たちも「抜本的改革」とか、「ゼロベース」とか、「ガラガラポン」って言っていたわけです。それ、バークじゃなくてロベスピエールだから。小泉政権も「ぶっ壊す」とか言っていましたね。 “秘伝のタレ型”の保守派、バーク的な保守派、いいとこを残しつつ雑味だけとっていくんだというね、そういう本物の保守は、学者とか政治家とか、オピニオンに影響を与える人にはまずいないですね。鰻屋さんとか焼き鳥屋さんにはいるんですけどね。

 

黒野:“秘伝のタレ型”というのは世界では例がありましたっけ?

 

中野:サッチャーが出てくる前までのイギリスがそうだったかもしれませんね。大雑把に言うと、王室が残っているところは“秘伝のタレ型”保守をまあ残していると言えるかもしれませんね。

 

黒野:日本も残っていますけどね(笑)。

 

中野:近代というのは、“秘伝のタレ”を否定する時代なんですよ。バークの何がすごいかというと、フランス革命を見て、近代の危うさに気づき、こんなやり方やっているとぶっ壊れて何もなくなるぞと示唆したんですね。バーク以降も、改革だ、イノベーションだ、とかやっているとまずいぞと気づいた人たちが、何人かいますね。サミュエル・テイラー・コールリッジ(イギリスの詩人、批評家、哲学者)もそうですし、トーマス・エリオット(イギリスの詩人、批評家)もそうです。ニーチェもそうですね。そういう人たちが保守と呼ばれるのですが、こういうことを最初に言い出したのは、バークだとされているわけです。

 

黒野:保守本流ですね。

 

中野:本当の意味での保守本流です。もっとも、バークの保守本流ばかりだとそれはそれで問題で、例えば、デフレがそうですけど、危機が起きて時代が大きく動いてしまったときは、従来の路線から大きく逸脱して立ち上がらなければいけないときがあると言えばあるんですよ。だから、私は革新派を必ずしも全否定していなくて、保守と革新がバランスよく並び立っているのが大事だと思うんです。ところが日本の場合は戦争に負けたときに、前近代的な古い日本がいけないんだと丸山眞男一派が唱えて、それが主流になった。要するに、日本があんな不幸な戦争をやったのは、近代化していなかったからだというストーリーにしたわけです。実際には、その逆で、近代化したから戦争したんですけど(笑)。「日本はフランスのような本当の民主革命をやっていないから、こんな悲惨な戦争を起してしまった。これを反省して、戦後は、封建的な残滓は一掃するぞ」と、こんな調子でやったせいで、戦後は、さっきの“継ぎ足し型”の保守本流が本当に弱ってしまいました。もっとも、戦中派の世代が引退していなかったときはまだいたんです。岸信介とか大平正芳とか。彼らが健在だったときは、もちろん彼らもいろいろな問題はあるのでしょうが、まあ、戦前と戦後で継ぎ足し部分をまだ残していた。でも、「いやいや、そういう戦前の継ぎ足しなんかがあるからいけないんだ」という、戦後の教育を受けた世代が出てきて、戦中派にとってかわったわけです。戦中派の継ぎ足し派がいつくらいから引退し出したかというと、80年代の終わりからですね。1993年に細川護熙が出てきて、ここから改革が始まってきますが、これをおぜん立てしたのが小沢一郎ですよね。小沢一郎、細川護熙、この人たちはみんな戦後生まれの政治家なんです。

 

黒野:確かに、小沢さんは戦後ですね。

 

1989年に47歳の若さで党幹事長に就任し、政権の実質的な実力者としてもてはやされた小沢一郎氏も現在は78歳。

 

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