「世の中のバカ化」の進行を止めるただひとつのやり方とは?(小田嶋隆×武田砂鉄【後編】) |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

「世の中のバカ化」の進行を止めるただひとつのやり方とは?(小田嶋隆×武田砂鉄【後編】)

■問題を解決せず、「まだやってるの?」に持ち込む仕組み

武田「毎年『現代用語の基礎知識』に原稿を書いているんですが、編集部の人と話していると、どうやら、1年間というくくりで『今年の流行語』を出すのが難しくなってきているそう。お笑い芸人でも年始にブレイクした人たちは、年末にはもうすっかり忘れられていたりする。ツイッターなんて、情報の鮮度の落ち方はすごいですよね。一晩寝たら、もうツイートするタイミングじゃなくなっていたってことが往々にしてありますから」

小田嶋「炎上してた奴が一晩ですっかり死人になってたりしますからね。いまさら焼死体を蹴りにいけないっていう」

武田「でも、いまの政権の手口っていうのは、自ら率先して死体化するというか、もうこれ以上つっこまないでくれって状況に、自らを持っていくんですよね」

小田嶋「森友や桜が生き延びたのもそれで、あまりにも露骨なツッコミどころがありすぎると誰もが同じようにつっこむしかなくて、それが3ヶ月も続けば、「まだやってるの?」になるんですよね」

武田「あれは本当によくできた仕組みです。問題解決をしないで、ただ『いつまでやってるの』っていう言い方をすると次のステップにいけるという」

小田嶋「まだ桜やってるの? もう秋だよ? っていうね。そうすると言ってる本人も「ああ、桜桜って半年も言い続けてきたのか」と情けなくなってしまって、結果、相手の勝ちなんですよ」

武田「日本学術会議の任命問題も、まだ話題になって一ヶ月くらいですけど、ずっとあののらりくらり答弁をやっていたら、『まだ言ってるの?』になるでしょうね」


2012年7月2日

インテリ層をひとくくりにして敵視しようとする時代思潮みたいなものが形成されはじめている。

『災間の唄』p.51より)


武田「これなんかも、今振り返ると、予見的だなと思います。あたかも、学術会議に関する議論のようです」

小田嶋「もう兆してたんですね、2012年に」

武田「『大学の先生たちは国から金をもらってるのに、政府の悪口を言ってるだけだ』みたいなね」


2015年6月14日

自分より教養の高い人と話をすることに喜びを感じるためには、ある程度の教養が必要なのだと思う。で、思うのだが、人文系の学部をつぶそうとしているのは、教養のある人間と交流することに苦痛を感じるタイプの人たちなんではなかろうか。

『災間の唄』p.150より)


小田嶋隆さん

小田嶋「さらに今、こういう感覚が極まってきてるんでしょうね。この後、反知性主義って言葉が流行ったでしょ。それを先駆的に言っていたような気もします」

武田「反知性主義という言葉は、誤用されたりすることも多かったですけど、ここではシンプルに『教養のある人間と交流することに苦痛を感じる』と言っています。今、まさに、そういうタイプの人間が国政を動かしています」


2017年12月30日

日本学術会議から学術を追放すると日本会議になることからも、学術の必要性は明らか。

『災間の唄』p.216より)


武田「これには驚きました。2017年のツイートですから。ただ、これを『小田嶋さんが予見してた! さすがだ!』って言うこともできるんだけど、実際はそうではなくて、同じようなことをずっと繰り返していたから、今の出来事と過去のツイートがリンクしてしまう。結局、同じところをぐるぐる回っていただけとも言えますね」

小田嶋10年間、こんなバカなことが同じように繰り返されていたっていうことが、時系列で見ていくとよくわかります」

 

次のページその時代の「空気」の資料集

KEYWORDS:

小田嶋隆(おだじま・たかし)

1956年東京赤羽生まれ。早稲田大学卒業。一年足らずの食品メーカー営業マンを経て、テクニカルライターの草分けとなる。国内では稀有となったコラムニストの一人。著書に『小田嶋隆のコラム道』『上を向いてアルコール』『小田嶋隆のコラムの切り口』(以上、ミシマ社)、『ポエムに万歳!』(新潮文庫)、『地雷を踏む勇気』(技術評論社)、『ザ、コラム』(晶文社)、『友達リクエストが来ない午後』(太田出版)、『ア・ピース・オブ・警句』『超・反知性主義入門』(以上、日経BP)、『日本語を、取り戻す。』(亜紀書房)など多数。

武田砂鉄 (たけだ・さてつ)

1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年からフリーライターに。著書に『紋切型社会―言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞、2019年に新潮社で文庫化)、『芸能人寛容論―テレビの中のわだかまり』(青弓社、2016年)、『コンプレックス文化論』(文藝春秋、2017年)、『日本の気配』(晶文社、2018年)、『わかりやすさの罪』(朝日新聞出版、2020年)などがある。新聞への寄稿や、週刊誌、文芸誌、ファッション誌など幅広いメディアでの連載を多数執筆するほか、ラジオ番組のパーソナリティとしても活躍している。

オススメ記事

RELATED BOOKS -関連書籍-

災間の唄
災間の唄
  • 小田嶋 隆
  • 2020.10.22