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「世の中のバカ化」の進行を止めるただひとつのやり方とは?(小田嶋隆×武田砂鉄【後編】)


コラムニストの小田嶋隆が2011年から2020年までの10年間にわたって書き続けてきたツイートを、フリーライターの武田砂鉄がセレクトし、解説を加えて一冊の本としてまとめた『災間の唄』(サイゾー)。それを記念したインタビュー後編では、どうして災間の10年が変わらなかったのか、その理由を追及していく。


武田砂鉄さん(左)と小田嶋隆さん(右)

■権力者が「いじる」対象から「説教する」対象へ

武田「今回、この本に収められた10年分のツイートには、社会的な事象に対するツッコミが多かったんですが、政治の世界で起きている事象がコメディのようなことばかりで、突っ込むほうがなかなか真面目に向きあっていられない、って感じが強くありましたね」

小田嶋「彼らが「いじる」対象じゃなくて、「説教する」対象になってしまっているんですよね。「いじる」っていうのは相手がすごくスクエアだったりスタティックだったりするときに発生するもので、本来、コラムニストってそういうスタティックな世界を「でも違う角度から見るとこうだよね」といじるものだった。でもいまは相手があまりにもグダグダだから、正面から説教しにいかざるをえない。もともとは上から俯瞰的・総合的に物事をみて発言する立ち位置だったのに、地面に降りて正面からああだこうだ言っているわけで、それは彼らのだらしなさ故ですよ」

武田「それこそ安倍さんから『桜を見る会の前夜祭の領収書はないんです』って堂々と言われちゃったとき、そこにつっこむのって難しいですよね」

小田嶋「難しいですね、つっこみどころがありすぎて。つっこみ芸って、相手がストロングスタイルだからこそ、足をひっかけにいったり変な技をかけたりできるんですよ。だけど相手がぐにゃぐにゃ寝っ転がっていたら、こちらがストロングスタイルで行かなきゃいけないでしょ。本来、「国というものはこうあるべきだ」と建前を言っているはずの政治家が「だってしょうがないじゃん」って開き直るから、こちらが「しょうがないで国は動かないじゃないか」と説教をしている。これはコラムニストと政治家の関係としては非常に不幸なことですよ」

武田「スーツをピシッと着込んで立っている人の鼻毛が出ているときに、そこを指摘するのが面白かったんだけど、今の状況って、ほとんど全裸で寝そべってるような相手に、こちらが『せめてパンツ履いてください』って言ってるような話ですからね」


2018年6月13日

「あまりにもバカすぎて反論する気にならない」ようなご意見にこそ、根気よく反論をぶつけて行かなければならない。でないと、あまりにもバカすぎるご意見はあまりにもバカすぎるがゆえに、ある日気がつくと世間の常識に化けていたりする。

『災間の唄』p.232より)


小田嶋「野党がだらしないっていわれている意味って、結局こういうことですからね。野党が常に正しいことを言ってることの退屈さを責められているわけで。やっぱり、逃げている人の言葉より、それを責めている方の言葉の方が退屈なんですよ」

武田「説教を面白く読ませるとか、そこに個性を出すっていうのはなかなか難しいことじゃないですか。かといって、『ちゃんと探して、領収書を出してくれ』っていう主張には代案も他の言い方もないですよね。ただ『出してくれ』でしかないんだから」

小田嶋「それに、工夫がないぞとか面白くないぞっていわれちゃうと、グウの音も出ないですよね」

武田「今、議論になっている、日本学術会議のメンバー6名を任命拒否した理由を言ってください、これも、バリエーションなんて出せないですしね」

小田嶋「人事のことだから答えを差し控えたいっていう解答に対して、なぜ人事に関しては答えられないのか、とつっこめないメディアが実は一番だらしないんですよ」

次のページ問題を解決せず、「まだやってるの?」に持ち込む仕組み

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小田嶋隆(おだじま・たかし)

1956年東京赤羽生まれ。早稲田大学卒業。一年足らずの食品メーカー営業マンを経て、テクニカルライターの草分けとなる。国内では稀有となったコラムニストの一人。著書に『小田嶋隆のコラム道』『上を向いてアルコール』『小田嶋隆のコラムの切り口』(以上、ミシマ社)、『ポエムに万歳!』(新潮文庫)、『地雷を踏む勇気』(技術評論社)、『ザ、コラム』(晶文社)、『友達リクエストが来ない午後』(太田出版)、『ア・ピース・オブ・警句』『超・反知性主義入門』(以上、日経BP)、『日本語を、取り戻す。』(亜紀書房)など多数。

武田砂鉄 (たけだ・さてつ)

1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年からフリーライターに。著書に『紋切型社会―言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞、2019年に新潮社で文庫化)、『芸能人寛容論―テレビの中のわだかまり』(青弓社、2016年)、『コンプレックス文化論』(文藝春秋、2017年)、『日本の気配』(晶文社、2018年)、『わかりやすさの罪』(朝日新聞出版、2020年)などがある。新聞への寄稿や、週刊誌、文芸誌、ファッション誌など幅広いメディアでの連載を多数執筆するほか、ラジオ番組のパーソナリティとしても活躍している。

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  • 小田嶋 隆
  • 2020.10.22