ニッポンの10年はただ同じことの繰り返し。ただし、悪くなっていることにみんな気がついてない。(小田嶋隆×武田砂鉄【前編】) |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ニッポンの10年はただ同じことの繰り返し。ただし、悪くなっていることにみんな気がついてない。(小田嶋隆×武田砂鉄【前編】)


コラムニストの小田嶋隆が2011年から2020年までの10年間にわたって書き続けてきたツイートを、フリーライターの武田砂鉄がセレクトし、解説を加えて一冊の本としてまとめた『災間の唄』(サイゾー)。2020年11月1日に、その刊行を記念して著者2人によるトークイベントが行われた。出版業界の現状から政治、お笑い、言葉遊びまで、ツイートを軸に二人の会話は様々な角度に転がっていく。


小田嶋隆さん(右)と武田砂鉄さん(左)

■猪瀬直樹から間接的にだがディスられていた!

武田「まずは、この本の発売が約3〜4ヶ月遅れた言い訳からお願いします」

小田嶋「私ね、昔から本ができちゃうと、やる気がなくなっちゃうんですよ。過去にはあとがきを8ヶ月書かなかったせいで刊行が遅れた本もあったくらい。ただし天狗になってるわけではなく、駆け出しで仕事が全然なかったころから原稿は遅れていた、ということだけは、ちゃんと伝えておきたいですね」

武田「仕事が増えてから締め切りをやぶるようになったわけではない、と」

小田嶋「昔、原稿を書いていたとある雑誌の編集者さんが、ある日、意を決して私の自宅に原稿を取りにきたことがあったんです。もう本当に小田嶋さんの原稿が最後ですから! ということで書いてお渡ししたら、『実は昨日、猪瀬直樹さんから原稿をいただいたときに「俺が最後だろう」とおっしゃるので、もう一人まだの方がいて……と小田嶋さんの名前を出したら、「そんな奴は知らないぞ! 俺が締め切りを延ばすようになったのは大宅壮一ノンフィクション大賞を獲ってからだ。名前も知らないような奴が俺より後に原稿を出すなとその小田嶋ってやつに説教しておけ!」と言われたことだけはお伝えしておきます』と言われまして」

武田「それは忘れてはならない話ですね。売れっ子になってからそういうことを言う人と、売れっ子になる前からずっと遅れていた人との違い」

小田嶋「そう、きちんと自分のポリシーで締め切りを延ばしている人間と、偉くなってから延ばす人間との違いですね」

武田「ともあれ、『災間の唄』、こうして無事に刊行されました」

小田嶋隆・著/武田砂鉄・撰『災間の唄』(サイゾー刊)

小田嶋「それに関しては、武田さんが元編集者というところを睨んで、セレクトの仕事をおまかせした編集担当者さんの眼力というのもさすがでしょうね」

武田「武田砂鉄に頼んでみよう、だって、小田嶋さんが自分でセレクトしていたらいつまでたっても本は出ないだろうから……ってな感じだったのではないかと」

小田嶋「きっと5年はかかったでしょうね」

武田「タイトルの『災間』というのは2011年の東日本大震災から2020年のコロナ禍までを指すわけですが、これ、当初の予定通り5月頃に刊行されていたとしたら、その時点では、まだ安倍政権が継続していた。で、小田嶋さんがあとがきを書くのを渋っていたところ、安倍政権も終わった、という」

次のページツイートは「何を言うか」ではなく「どう言うか」

小田嶋隆(おだじま・たかし)

1956年東京赤羽生まれ。早稲田大学卒業。一年足らずの食品メーカー営業マンを経て、テクニカルライターの草分けとなる。国内では稀有となったコラムニストの一人。著書に『小田嶋隆のコラム道』『上を向いてアルコール』『小田嶋隆のコラムの切り口』(以上、ミシマ社)、『ポエムに万歳!』(新潮文庫)、『地雷を踏む勇気』(技術評論社)、『ザ、コラム』(晶文社)、『友達リクエストが来ない午後』(太田出版)、『ア・ピース・オブ・警句』『超・反知性主義入門』(以上、日経BP)、『日本語を、取り戻す。』(亜紀書房)など多数。

武田砂鉄 (たけだ・さてつ)

1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年からフリーライターに。著書に『紋切型社会―言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞、2019年に新潮社で文庫化)、『芸能人寛容論―テレビの中のわだかまり』(青弓社、2016年)、『コンプレックス文化論』(文藝春秋、2017年)、『日本の気配』(晶文社、2018年)、『わかりやすさの罪』(朝日新聞出版、2020年)などがある。新聞への寄稿や、週刊誌、文芸誌、ファッション誌など幅広いメディアでの連載を多数執筆するほか、ラジオ番組のパーソナリティとしても活躍している。

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  • 小田嶋 隆
  • 2020.10.22