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女性自殺者が増加。反出生主義者で「地球は地獄だ」と思っている私が自殺しない理由(藤森かよこ)

『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』を自殺者予備軍の女性に薦める!

■反出生主義者で地球は地獄だと思う人間からすれば自殺は理解できる

 私自身は、「反出生主義」(antinatalism)という言葉を知る前から、「反出生主義者」であったし、この世界はろくでもないと思っているので、自殺する人々や自殺未遂する人々の気持ちが理解できないということはない。

 「反出生主義者」(antinatalist)というのは、「生まれてきたことこそ死にまさる災厄だと考える人間」のことだ。興味のある人は、以下の書籍をお読みください。ルーマニアの作家であるエミール・ミハイ・シオラン(Emil Mihai Cioran, 1911 – 1995)の『生誕の災厄』(出口裕弘訳、紀伊國屋書店、1976)とか、南アフリカ共和国の哲学者ディヴィッド・べネター(David Benatar, 1966-)の『生まれてこない方が良かった存在してしまうことの害悪』(小島和男&田村宜義訳、すずさわ書店、2017)とか、大谷崇(おおたに・たかし)の『生まれてきたことが苦しいあなたに最強のペシミスト・シオランの思想』(星海社、2019)とか、森岡正博の『生まれてこないほうが良かったのか?生命の哲学へ!』(筑摩選書、2020)などを。

 私は、この世界や地球こそが地獄だと思っている。歴史の教科書やメディアは、実際に起きた残虐非道な史実や事件の内実は伝えない。ほんとうに、とんでもないことがこの世界や地球では展開されてきたし、今も展開している。よく「神の怒りで人類が滅びる」などと言われるが、それが真実ならば、何億回も人類は滅びてきたはずだ。それぐらいに、ろくでもないことを人類はしてきている。まさに、この世界に生まれたこと自体が災厄なのだ。

 だから、その災厄が辛くて、耐える意味が見つからず、自殺する人間がいるのは当然だと思う。だから、自殺が悪いことだとは思わない。かといって、自殺者に同情する気もない。ただ、随分と視野の狭い、想像力のない、頭の硬い人々であるなあ、と思うだけだ。

■私が自殺しなかった理由

 私自身、駅のホームに立っているときに、構内に進んでくる電車にジャンプすればラクになるのかなあ、と思ったことは何度もある。では、なぜ私は自殺せずに生きてきたのだろうか。

 まず自分が死ぬことによって決定的に傷つく家族を含めた他人への慮りがあった。では、そうした他人がいないならば、自殺できるのだろうか?私の両親はすでに他界している。夫が亡くなれば自殺できるだろうか?

 私は、私を必要とする他人がいなくても自殺しない。うっかり転倒し頭を床に派手にぶつけて死んでしまうことはあっても、何もかも面倒くさくてセルフ・ネグレクトのすえに衰弱死しても、自殺はしない。

 なぜならば、私は、普通程度に想像力があり、かつ普通程度に視野が狭くないので、以下のようなことをいろいろ考えてしまうからだ。

 まず、首吊りだろうが、高層ビルからのジャンプであろうが、電車へのジャンプであろうが、毒物による自死であろうが、自殺の遺体はおぞましい姿になることが多い。死ねば黒い霧となって消滅するのはファンタジー映画だけだ。醜悪な遺体の後始末をする方々に実に申し訳ないではないか。

 それから、自殺し損なって入院すると、その医療費は健康保険適用外であるので無茶苦茶に高額になる。故意の怪我とかは保険適用外だという決まりになっている。だから、自殺するなら絶対に確実に死ねる方法を採らねばならないが、確実に死ねる自殺方法を選ぶのは難しい。

 それから、死後の世界は、いまだに人類にとっては人跡未踏の時空なので、自分から進んでわけのわからない所に行くのはリスクがあり過ぎる。これからの科学の急速な発展で、死後の世界についても解明がなされるだろう。未知の場所に行くときは予備知識があったほうがいい。「地球の歩き方」ならぬ決定版「あの世の歩き方」を読んでからのほうがいい。

 加えて、「生まれたことの災厄」や「生きることの意味のなさ」を徹底的に考えると、「自殺することも意味がない」と思うようになる。人間の生が徹底的に意味のないものならば、かえって気楽に生きることができる。

 何をしても、何をしなくても、誰がなんと評価しようと、世界がどう変わろうと、支配者だろうが被支配者だろうが、健康に良かろうが悪かろうが、すべて意味がないのは気楽だ。解放感いっぱいだ。救済もユートピアもなくてもどうでもいい。嘘も真実もどうでもいい。夢も恐れもない。ならば、逆説的に、気が向いたら何でもやってみるかという気分になる。

 「生まれ変わったら、今度は幸せになりたいわ」なんて言っていてはダメだ。生まれ変わるかどうかわからない。生まれ変わったとしても、最初からやり直しであり、あの不自由な子ども時代を反復するのだ。馬鹿々々しいではないか。前世で得た知識や認識や洞察が蓄積されて次の人生を始めることができないのならば進歩も進化もない。輪廻転生というのは呪いでしかない。

 だから、金輪際、絶対に肉体を持って生まれてこないぞと決意しなければならない。そのためには、やり残したことが無くなるまで、未練も怨念も哀しみも何もこの世界に感じなくなるまで徹底的に生きることだ。自分の一刻一刻に集中すべきだ。ほんとうに、自分がしたいと思っていることをするべきだ。他人がしているからとか、他人が羨ましがるからとか、他人が是認するからとかの理由で、自分の欲望ではなく他人の欲望を生きてはいけない。何もしたくなくて、ただただ風に吹かれていたいだけならば、ほんとうにそうならば、無為に風に吹かれているべきだ。

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課 程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。  

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