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第二次大戦における、ドイツ軍Uボート艦隊総司令官デーニッツの思惑

オムニバス・Uボート物語 深海の灰色狼、敵艦船を撃滅せよ! 第2回

深海の灰色狼。第二次世界大戦で大西洋において連合国側を戦慄させたドイツ海軍の潜水艦「Uボート」にまつわる物語をオムニバス連載で紹介する。

ドイツ占領下フランスのサン・ナゼール軍港で、無事に帰還したU94を出迎えるカール・デーニッツ(中央)。

スカパ・フローに潜入せよ! 
その1:Uボート艦隊総司令官デーニッツの思惑

 Uボートとはドイツ語のUnterseeboot(ウンターゼーボート、潜水艦の意)の略で、いわゆる潜水艦のことだ。第一次大戦時、通商破壊戦に猛威をふるったため、敗戦後のドイツは潜水艦の保有を禁じられた時期が続いた。
 しかし再軍備化により、ドイツ海軍にとって伝統ともいえるUボート艦隊が復活したのだった。

 そのUボート艦隊総司令官を務めるカール・デーニッツ代将(開戦当時)は、自らもまた第一次大戦でUボートの艦長を経験した「Uボート乗り」であった。

 のちの第二次大戦敗戦直前、自決するヒトラーに指名されて二代目のドイツ総統に就任するほど優秀な彼は、開戦前、再三にわたってUボートの圧倒的な不足をレーダーに訴えていた。しかし軍備が整っていないのは海軍全体の問題で、Uボート艦隊だけを優遇するわけにはいかないというもっともな理由から、Uボートの建造隻数を増やすことは認められなかった。

 

 だが戦争は始まってしまった。そこでデーニッツは、手持ちのUボート約60隻を駆使してできるだけの作戦行動を実施。それは主に通商破壊戦だったが、ひとつの冒険的な作戦も立案された。
 スコットランドのオークニー諸島には、イギリス海軍の重要な根拠地のひとつであるスカパ・フロー泊地が所在したが、同泊地にUボートを侵入させて、停泊中の戦艦や空母などの主力艦を撃沈しようというのだ。

 実は同様の作戦は、第一次大戦中にも2隻のUボートによって試みられたが、失敗に終わっていた。デーニッツはもちろんこの事例を承知しており、今度こそ成功させようと意気込んでいた。
 もしこの作戦が成功すれば、大きな打撃を蒙ったイギリス本国艦隊は北海を封鎖しきれなくなり、ドイツ側の大西洋への出撃が容易になって通商破壊戦が行いやすい環境となるかも知れない。

 さらに政治的立場で見た場合、できる限りドイツに有利な条件で講和により戦争を終結させようという際には、艦隊の根拠地を襲って主力艦を撃沈することなどドイツ海軍には簡単なのだと思わせて、イギリス側の戦意を阻喪させようという思惑もあった。

@次回は8月23日(水)に配信予定です。

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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