西浦批判の繰り返しこそ「全体主義への大衆煽動」【中野剛志×佐藤健志×適菜 収:第3回】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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西浦批判の繰り返しこそ「全体主義への大衆煽動」【中野剛志×佐藤健志×適菜 収:第3回】

「専門家会議」の功績を貶めた学者・言論人


 危機が発生すると、必ずデマゴーグが出現する。今回、新型コロナウイルスのパンデミックがあぶり出したのは、無責任な極論、似非科学、陰謀論を声高に叫び出す連中の正体だった。彼らの発言は二転三転してきたが、社会に与えた害は大きい。実際、人の命がかかわっているのだ。追及すべきは、わが国の知的土壌の脆弱性である。専門家の中でも意見が分かれる中、われわれはどのように思考すればいいのだろうか。中野剛志×佐藤健志×適菜収が緊急鼎談を行った(第3回)


新型コロナ対策として、うがい薬の利用を推奨し、世間を混乱に陥れた吉村洋文大阪府知事。イソジン吉村の異名をもって、釈明会見に及ぶ。2020年8月5日。 クレジット:Pasya/アフロ

■現実を直視する者と、頭を真っ白にする者

中野:日本での年齢別の感染者の割合が出ていて、重症化したり死んだりしたのは60代、70代、80代以上と年寄りばかりなんですね。若者はほとんど死んでいないし、重症化もしていない。そのデータを見せて藤井氏が言っていたことは……。

佐藤:「(大学講義風で恐縮ですが……)皆さん、まず頭を真っ白にしてコレをよーく見て下さい」(5月9日付ツイート。カッコは原文。https://twitter.com/SF_SatoshiFujii/status/1258883421515866112

中野:そう。しかし、「観察の理論依存性」と言って、科学哲学の初歩的な問題ですけど、データは、頭を真っ白にしてしまったら、何も読み取れなくなってしまうものなんですよ。

佐藤:そもそも頭を真っ白にしたら思考能力がなくなります。読んで字のごとく、ホワイトアウトなんですから。コンピュータで言えば、ハードディスクを初期化するのと同じですね。

中野:専門家とか知識人を名乗るんだったら、頭を真っ白にしたら理解できないデータについて、「このデータは、こういうふうに解釈するんですよ」と解説しなければならない。このケースでいうと、一般人は「ああ、重症になったり、死んだりするのは高齢者だけだ。若者は感染しても平気なんだ」と安心してしまう。でも、テレビで解説されていましたが、重症化とされてカウントされているのはICUに入れなければならないような人だけだそうですね。

適菜:入院が必要な「中等症」もあります。血栓ができたり、若い人でも後遺症がかなり残る。

佐藤:しかも脳に出たりする。「オー・ノー」というやつで。

中野:そうらしいですね。しかも、米疾病対策センター(CDC)によると、高齢者と基礎疾患を持っている人だけではなくて、妊婦も危ないのだそうです。これは、先ほどのデータを見るだけでは分からないことです。加えて、「感染者数が膨大に増えたら、割合が低くても死者数は増える」「若者は感染してもいいというけれど、その人達が増えたら、年寄りに感染させる機会は高まる」といった解説も耳にしました。もっと言えば、このデータは、医療崩壊が起きていない時点での数字に過ぎません。つまり、専門家会議などの感染症や公衆衛生の専門家が、素人がデータだけを見て「たいしたことない」と油断するのを恐れて、一生懸命解説し、警告を発しているのに、その一方で「頭を真っ白にして見て下さい」と呼びかける大学教授がいるわけです。いったい、どういう指導を学生にしてるんだと。

適菜:これはよくないですね。

中野:呼びかけるべきは、むしろ「頭を真っ白にする」ことの危険性でしょう。大衆を煽動し操作するには、大衆の頭は真っ白のほうがいい。私に言わせれば、「頭を真っ白にする」ことは、全体主義への第一歩です。
 専門家会議の先生方は、公式な会議の場以外でも、自分達で自主的に集まって、土日も含めて、ガンガン怒鳴り合うような議論をしていたのだそうです
https://diamond.jp/articles/-/240982)。そこには、お互いに対するリスペクトと国民を救いたいという強い使命感が共有されていた。私は「何て素晴らしい先生たちなんだ。こういう先生方が日本にはいるんだ」と感動しました。これこそ、まさに熟議の典型です。それに引き換え、「皆さん、頭を真っ白にしてこのデータを見てみましょう」などと、よくもまあ……。

適菜:平成の30年では「1度リセットして」というファミコン脳の人たちがいろいろ出てきました。

佐藤:「自分では何も考えず、僕の主張を鵜呑みにして下さい」と言うのと同じになってしまう。国民を救いたい気持ちはともかく、リスペクトがあるとは言いがたい。ジョージ・オーウェルではありませんが、まさしく「無知は力」ですね。

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中野 剛志
なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。最新刊は『日本経済学新論』(ちくま新書)は好評。KKベストセラーズ刊行の『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編』』は重版10刷に!『全国民が読んだから歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』と合わせて10万部。


佐藤 健志
さとう けんじ

評論家

1966年東京都生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒。1989年、戯曲「ブロークン・ジャパニーズ」で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞受賞。主著に『右の売国、左の亡国』『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』『僕たちは戦後史を知らない』『夢見られた近代』『バラバラ殺人の文明論』『震災ゴジラ! 』『本格保守宣言』『チングー・韓国の友人』など。共著に『国家のツジツマ』『対論「炎上」日本のメカニズム』、訳書に『〈新訳〉フランス革命の省察』、『コモン・センス完全版』がある。ラジオのコメンテーターはじめ、各種メディアでも活躍。2009年~2011年の「Soundtrax INTERZONE」(インターFM)では、構成・選曲・DJの三役を務めた。現在『平和主義は貧困への道。あるいは爽快な末路』(KKベストセラーズ)がロングセラーに。


適菜 収
てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、清水忠史との共著『日本共産党政権奪取の条件』(KKベストセラーズ)など著書40冊以上。現在最新刊『国賊論~安倍晋三と仲間たち』(KKベストセラーズ)が重版出来。そのごも売行き好調。購読者参加型メルマガ「適菜収のメールマガジン」も始動。https://foomii.com/00171

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