新型コロナがあぶり出した「狂った学者と言論人」【中野剛志×佐藤健志×適菜 収:第1回】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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新型コロナがあぶり出した「狂った学者と言論人」【中野剛志×佐藤健志×適菜 収:第1回】

「専門家会議」の功績を貶めた学者・言論人


危機が発生すると、必ずデマゴーグが出現する。今回、新型コロナウイルスのパンデミックがあぶり出したのは、無責任な極論、似非科学、陰謀論を声高に叫び出す連中の正体だった。彼らの発言は二転三転してきたが、社会に与えた害は大きい。実際、人の命がかかわっているのだ。追及すべきは、わが国の知的土壌の脆弱性である。専門家の中でも意見が分かれる中、われわれはどのように思考すればいいのだろうか。中野剛志×佐藤健志×適菜収が緊急鼎談を行った。


■「新型コロナ専門家会議」を断罪したのは誰か

尾身茂(右)、西浦博(左)らの新型コロナ対策専門家会議が会見を行ったときの様子。2020年5月。西浦氏が人との接触において「8割削減」を提唱。(写真:AFP/アフロ)

 

適菜:今回の新型コロナ禍において、わが国の言論の状況の病が可視化した。デマを流す連中、いいかげんなことを言う連中が次々と現れたわけです。どうでもいい話なら、放置するかもしれませんが、今回は人の命が関わる問題です。だから曖昧にしたままではまずい。

 先日面白い記事をネットで読んだんです。中公文庫編集部が猪瀬直樹の『昭和16年夏の敗戦』を紹介した文章(https://fujinkoron.jp/articles/-/2321)ですが、今の日本の状況に近いのではないかと。昭和16年12月、日米開戦の8ヵ月前に「総力戦研究所」というのがつくられるんです。「官民各層から抜擢された有為なる青年」36名が全国から集められた。条件として挙げられたのは、「人格高潔、智能優秀、身体強健にして将来各方面の首脳者たるべき素質を有するもの」だった。彼らは闊達な議論を行い、あらゆるデータを集め、開戦後のシミュレーションを繰り返し、「緒戦、奇襲攻撃によって勝利するが、長期戦には耐えられず、ソ連参戦によって敗戦を迎える」との結論に達した。見事にそれは的中します。

中野: それなのに、日本は開戦に踏み切ったのですか。

適菜:開戦後の石油保有量を予測したある一つのデータが出て、戦争を始めたい勢力がそれに飛びついたんです。たとえ「客観的」なデータであっても、解釈するのは人間です。

 今回の新型コロナとの戦いにおいても愚行は繰り返されました。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議というエリートが集められたのに、安倍晋三周辺は、彼らが出した予測を無視し、妨害してきた。国民の生命より財界の意向を重視したわけです。「コロナはただの風邪」「夏には終息する」などと言いだすデマゴーグも登場しました。

佐藤:新型コロナを巡る言論がおかしいと、適菜さんが思い始めたのはいつですか?

適菜:知り合いの編集者が、医師で神戸大学教授の岩田健太郎さんの本(『新型コロナウイルスの真実』(KKベストセラーズ刊))を作っていたんです。それでその編集者とはよく新型コロナについて話をしていました。当時は、世間的に岩田さんはエキセントリックな人と捉える人もいて、私もいろいろ気になっていた。徹底的におかしいと感じたのは、京都大学教授の藤井聡氏が西浦・尾身氏に公開質問状みたいなのを出したじゃないですか。

【藤井聡】【正式の回答を要請します】わたしは、西浦・尾身氏らによる「GW空けの緊急事態延長」支持は「大罪」であると考えます。(2020年5月21日)
https://38news.jp/economy/15951

 その直後に中野さんから連絡があって、「藤井氏が一線を越えてしまった」と。その後も、中野さんとはメールでやりとりをして、新型コロナに対する言論状況を追ってきました。

中野:くだんの「公開質問状」にはこう書かれていたのを見て、私は正直、身の毛がよだつ思いがしましたよ。「万一、西浦氏・尾身氏が、当方の以上の断罪が不当なものであると考えるのなら、科学者として正々堂々と書面回答されることを強く要請します。彼等がそれをしないというなら、筆者は一人の学者として、西浦氏・尾身氏らが自らの大罪を認めたということなのではないかと考えます。」
 この異常さについては説明を要しないと思うけれども、勝手に「お前を断罪する」とかいう質問状を送り付けてきた奴に、書面回答しなかったら、どうして「自らの大罪を認めた」ことになるんですか? 公開質問状の返事がないから勝利宣言なんて、学者の振る舞いじゃあない。批判があり、応答が欲しいなら、専門の学会や学会誌で気が済むまで論争してくれ。それが「科学者として正々堂々」というものでしょう。百歩譲って、自分の師匠格にあたるような権威からの質問状だったら、丁寧に書面回答するという礼儀もあるのかもしれませんが、藤井氏はそんなに偉いんですか?

佐藤:では、藤井さんの言動に適菜さんが違和感をおぼえるようになったのはいつごろでしょう。

適菜:顔見知りの人を直接批判するのは面倒ですよね。だから、Facebookに関連の記事を貼ったり、間接的にメッセージを伝えようとはしたのですが、名前を出して批判しようと決めたのは「今、『自粛派』になってしまっているのは、コロナに壊される『社交』を持たない人々なのだと思います」とか言い出した時ですね。

佐藤:「僕は、自粛させられていることで、山ほど嫌な思いをしています」と宣言した文章(https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20200706/)ですね。で、何が嫌なのかというと「いつも行ってる釣りにも行けない」と書いてある。

中野: ちょっと何言ってんのか分かんない……。

適菜:「いつも行ってる酒場には行けない」「行こうと思ってたライブも中止になったし、やろうと思ってたライブも中止になった」「新入生歓迎のコンパだってできないし、今年行こうと思ってたイタリア出張もいけなくなった」「社交をもたぬ人々は、自粛のデメリットが分からないから、すぐに自粛しろと言いがちになる」と。それで「『やりたいことが(家族と職場以外)特に無い、自粛は嫌じゃ無い人々』は、そういう、コロナ自粛で苦しめられている人と、全く個人的な付き合いを持っていない」と意味不明のレッテルを貼るわけです。「そしてそんな大切な社交が分からんようなガキは、大人の社会のあり方を決定する(尾身氏の言うような)自粛論に参画しちゃいかんのです」と。自粛している人もそれぞれ事情があるはずです。社会のことがわからないガキは一体どちらなのかという話ですね。

佐藤:愛すべき文章じゃないですか。パンデミックが起きているのに、行動制限にたいするアンチテーゼが、釣りにライブにコンパ。「よほどストレスがたまっているんだね」と微笑ましく思うのが、まっとうな大人の反応です。

適菜:最近は「日本の文化的危機を回避する為、2mの社会的距離を取らずに感染拡大を防ぐ方法を明らかにし『満席状態でのライブ』ができる方針を模索すべく」ライブイベントを「実験開催」すると。

佐藤:参加を強制するのでないかぎり、べつに構わないでしょう。つきあわない自由もあるんだから。

適菜:でも、「京都大学レジリエンス実践ユニットのウイルス学が専門の宮沢孝幸准教授と当方が監修」という形(http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/resilience/documents/corona_riskmanagement.pdf)でやっているわけです。要するに京大ブランドを使っている。そういうこともあって、FacebookやTwitterで直接藤井氏を批判したんですね。佐藤さんはいつからおかしいと?

佐藤:最初に奇妙に思ったのは3月です。藤井さん、「過剰自粛という集団ヒステリー」というメルマガ(「新経世済民新聞」2020年3月4日付。https://38news.jp/economy/15456)で、イベントにおける感染のリスクについて、参加者100人以下だったらほぼゼロだと主張しました。
 ところが、その文章に付された感染拡大の確率をめぐる計算式を見ると、一人あたりの感染確率と参加人数しか考慮していない。各人の距離、つまりは「密」かどうかが抜けているんです。
 しかもメルマガ本文で、この計算について説明している箇所では、「一人あたりの感染確率」が「(注:イベント参加者に)感染者が含まれる確率」になっていた。まるで違う話でしょう。おまけに0.5%を四捨五入するとゼロになると書いてある。
 四捨五入なら、5は切り上げです。要するに「論」と呼びうるものではなかったんですね。

 その後、3月末にあるインターネット番組で藤井さんと共演しました(https://www.nicovideo.jp/watch/sm36590469)。で、彼の前でハッキリ言ったんですよ。感染被害と経済被害の両方を抑え込むのがベストだが、どちらか一方を選ばねばならないのなら「経済被害に耐えてでも感染被害を抑える」でなければダメだと。
 経済被害なら政府が財政出動することでかなり緩和できます。しかし政府がいくら国債を発行しても、それだけで医師が増えるわけではないし、ワクチンがパッと出現することもない。だから感染対策が経済対策より優先。
 藤井さん、まったくそうだと賛成していました。ところが、少し経つと一転して自粛緩和を説き始める。これでは「感染被害に耐えてでも経済被害を抑える」になってしまいます。政府が財政出動しないとき、自粛緩和だけでどこまで経済被害を抑え込めるかも疑問ですが、とりあえず脇に置きましょう。問題はもっと根本的なレベルにあるからです。
 整合性がないじゃないかと何度か指摘したものの、一切黙っていました。自分と異なる主張は聞きたくないようで。

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中野 剛志
なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。最新刊は『日本経済学新論』(ちくま新書)は好評。KKベストセラーズ刊行の『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編』』は重版10刷に!『全国民が読んだから歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』と合わせて10万部。


佐藤 健志
さとう けんじ

評論家

1966年東京都生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒。1989年、戯曲「ブロークン・ジャパニーズ」で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞受賞。主著に『右の売国、左の亡国』『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』『僕たちは戦後史を知らない』『夢見られた近代』『バラバラ殺人の文明論』『震災ゴジラ! 』『本格保守宣言』『チングー・韓国の友人』など。共著に『国家のツジツマ』『対論「炎上」日本のメカニズム』、訳書に『〈新訳〉フランス革命の省察』、『コモン・センス完全版』がある。ラジオのコメンテーターはじめ、各種メディアでも活躍。2009年~2011年の「Soundtrax INTERZONE」(インターFM)では、構成・選曲・DJの三役を務めた。現在『平和主義は貧困への道。あるいは爽快な末路』(KKベストセラーズ)がロングセラーに。


適菜 収
てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、清水忠史との共著『日本共産党政権奪取の条件』(KKベストセラーズ)など著書40冊以上。現在最新刊『国賊論~安倍晋三と仲間たち』(KKベストセラーズ)が重版出来。そのごも売行き好調。購読者参加型メルマガ「適菜収のメールマガジン」も始動。https://foomii.com/00171

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