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現実を直視できない日本と新型コロナのゆくえ【中野剛志×佐藤健志×適菜収:最終回】

「専門家会議」の功績を貶めた学者・言論人


危機が発生すると、必ずデマゴーグが出現する。今回、新型コロナウイルスのパンデミックがあぶり出したのは、無責任な極論、似非科学、陰謀論を声高に叫び出す連中の正体だった。彼らの発言は二転三転してきたが、社会に与えた害は大きい。実際、人の命がかかわっているのだ。追及すべきは、わが国の知的土壌の脆弱性である。専門家の中でも意見が分かれる中、われわれはどのように思考すればいいのだろうか。中野剛志×佐藤健志×適菜収が緊急鼎談を行い、記事を配信したのは202087日。今回、2021年810日に発売される中野剛志×適菜収著『思想の免疫力』を記念して再配信。(第5回 最終回)


2020年8月19日、国会衆院厚生労働委員会で答弁に立つ尾身茂氏。
クレジット:つのだよしお/アフロ

 

■「何が正しい主張なのか」を見分ける方法

 

佐藤:20世紀後半に入り、人類は疫病を文字通り撲滅する試みに打って出ました。まさに「最終的解決」ですが、天然痘は1970年代末、本当に滅ぼされます。最近もWHOが、アフリカでポリオ(小児麻痺)が根絶されたと発表しました。アフガニスタンとパキスタンでは残っているようなので、完全に撲滅されたわけではありませんが、テドロス事務局長は「歴史的な公衆衛生上の成功」だと自慢していますhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20200826/k10012584621000.html
 ただしマラリアについては、従来の治療薬にたいする耐性を身につけさせる結果に終わりましたし、エボラだのエイズだの、新しい病原体が出てきた。

中野:専門家会議の先生方も撲滅とか感染ゼロにするとは言っていなくて、医療崩壊を防ぐためにコントロールすることを目指していた。「感染者ゼロを目指すなんておかしい」という批判は、専門家会議に対しては当てはまらないはず。

適菜:中野さんがおっしゃるとおりで、勝手に敵を作り上げてそれを叩くわけですね。典型的なストローマン論法です。

佐藤:4回目で出た話題ですが、真善美は下手に振り回すと、偽悪醜になってしまう。それをカモフラージュするには、偽悪醜の化身のような敵と戦っていることにするのが一番手っ取り早い。
 対立相手の真の姿など、問題ではないわけです。というか、そもそも正しく認識できなくなっている恐れが強い。プラトンの「洞窟の比喩」のような状態ですね。現実を見ているつもりで、洞窟の壁(=自分の脳内)に映る歪んだ幻影ばかり見ては、都合や思い込みにあわせて勝手に解釈するようになる。

中野:藤井氏が好んで引用する話ですがね。

佐藤:幻影に文句をつけるかぎり、何でも好きなことが言えます。敵のあり方そのものを、自分が必ず勝てるように設定できるんだから。独り相撲でいつでも優勝、じつに爽快な話です。
 ただしこれにハマると、洞窟から永遠に出られなくなる。洞窟がタコツボに変わると言ってもいいでしょう。

適菜:イギリスのボリス・ジョンソンが反省したじゃないですか。自分たちは集団免疫作戦やろうとしたけど、あれは間違いだったと認めました。「最初の数週間、数カ月は理解していなかった」「違うやり方ができたかもしれない」と。反省できるのは立派なことです。スウェーデンのアンデシュ・テグネルも、勝手に勝利宣言したものの、短期間で多数の死者がでたことは認めている。でも日本政府の場合、なにをしようとしていたのかさえ明確ではなかったので、反省しようがない。日本人は痛い目にあわなければ分からないと言う人がいるけど、すでに散々痛い目にあっているわけでしょう。もうなにがあっても気付かないんじゃないですか。中野さん、どう思います?

中野:気づかないでしょう。だって気づきたくないんだから。自分を誤魔化すための理屈ならいくらでもつけようがありますからね。論理の一貫性などかなぐり捨てて、自分を誤魔化そうとするだけでしょう。

適菜:しかし、一般の人は、それぞれの論者の発言のすべてを追っているわけではないから、一貫性がなくても気づかないですよね。

中野:そうです。普通の人は、そんなに暇ではないし。

佐藤:何が正しいか、見分けるのは簡単です。この鼎談の1回目で言いましたが、新型コロナに関する話を聞いて、溜飲が下がったり、ホッとする思いを感じたりしたら信用しない、それだけでいいんですよ。都合の良すぎる話は疑ってかかる、健全な常識だと思いますが。

適菜:現実を直視できないから嘘のほうを選んでしまう。結局、分かりやすい説明が好きなんですね。

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[caption id="attachment_1058508" align="alignnone" width="525"] ◆成功体験のある人間ほど失敗するのはなぜか
◆ 新型コロナが炙り出した「狂った学者と言論人」とは
高を括らず未知の事態に対して冷静な観察眼をもって対応する知性の在り処を問う。「本質を見抜く目」「真に学ぶ」とは何かを気鋭の評論家と作家が深く語り合った書。
はじめに デマゴーグに対する免疫力 中野剛志
第一章 人間は未知の事態にいかに対峙すべきか
第二章 成功体験のある人間ほど失敗するのはなぜか
第三章 新型コロナで正体がばれた似非知識人
第四章 思想と哲学の背後に流れる水脈
第五章 コロナ禍は「歴史を学ぶ」チャンスである
第六章 人間の陥りやすい罠
第七章 「保守」はいつから堕落したのか
第八章 人間はなぜ自発的に縛られようとするのか
第九章 世界の本質は「ものまね」である
おわりに なにかを予知するということ 適菜 収[/caption]

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