現実を直視できない日本と新型コロナのゆくえ【中野剛志×佐藤健志×適菜 収:最終回】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

現実を直視できない日本と新型コロナのゆくえ【中野剛志×佐藤健志×適菜 収:最終回】

「専門家会議」の功績を貶めた学者・言論人


危機が発生すると、必ずデマゴーグが出現する。今回、新型コロナウイルスのパンデミックがあぶり出したのは、無責任な極論、似非科学、陰謀論を声高に叫び出す連中の正体だった。彼らの発言は二転三転してきたが、社会に与えた害は大きい。実際、人の命がかかわっているのだ。追及すべきは、わが国の知的土壌の脆弱性である。専門家の中でも意見が分かれる中、われわれはどのように思考すればいいのだろうか。中野剛志×佐藤健志×適菜収が緊急鼎談を行った(最終回)


2020年8月19日、国会衆院厚生労働委員会で答弁に立つ尾身茂氏。
クレジット:つのだよしお/アフロ

 

■「何が正しい主張なのか」を見分ける方法

佐藤:20世紀後半に入り、人類は疫病を文字通り撲滅する試みに打って出ました。まさに「最終的解決」ですが、天然痘は1970年代末、本当に滅ぼされます。最近もWHOが、アフリカでポリオ(小児麻痺)が根絶されたと発表しました。アフガニスタンとパキスタンでは残っているようなので、完全に撲滅されたわけではありませんが、テドロス事務局長は「歴史的な公衆衛生上の成功」だと自慢していますhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20200826/k10012584621000.html
 ただしマラリアについては、従来の治療薬にたいする耐性を身につけさせる結果に終わりましたし、エボラだのエイズだの、新しい病原体が出てきた。

中野:専門家会議の先生方も撲滅とか感染ゼロにするとは言っていなくて、医療崩壊を防ぐためにコントロールすることを目指していた。「感染者ゼロを目指すなんておかしい」という批判は、専門家会議に対しては当てはまらないはず。

適菜:中野さんがおっしゃるとおりで、勝手に敵を作り上げてそれを叩くわけですね。典型的なストローマン論法です。

佐藤:4回目で出た話題ですが、真善美は下手に振り回すと、偽悪醜になってしまう。それをカモフラージュするには、偽悪醜の化身のような敵と戦っていることにするのが一番手っ取り早い。
 対立相手の真の姿など、問題ではないわけです。というか、そもそも正しく認識できなくなっている恐れが強い。プラトンの「洞窟の比喩」のような状態ですね。現実を見ているつもりで、洞窟の壁(=自分の脳内)に映る歪んだ幻影ばかり見ては、都合や思い込みにあわせて勝手に解釈するようになる。

中野:藤井氏が好んで引用する話ですがね。

佐藤:幻影に文句をつけるかぎり、何でも好きなことが言えます。敵のあり方そのものを、自分が必ず勝てるように設定できるんだから。独り相撲でいつでも優勝、じつに爽快な話です。
 ただしこれにハマると、洞窟から永遠に出られなくなる。洞窟がタコツボに変わると言ってもいいでしょう。

適菜:イギリスのボリス・ジョンソンが反省したじゃないですか。自分たちは集団免疫作戦やろうとしたけど、あれは間違いだったと認めました。「最初の数週間、数カ月は理解していなかった」「違うやり方ができたかもしれない」と。反省できるのは立派なことです。スウェーデンのアンデシュ・テグネルも、勝手に勝利宣言したものの、短期間で多数の死者がでたことは認めている。でも日本政府の場合、なにをしようとしていたのかさえ明確ではなかったので、反省しようがない。日本人は痛い目にあわなければ分からないと言う人がいるけど、すでに散々痛い目にあっているわけでしょう。もうなにがあっても気付かないんじゃないですか。中野さん、どう思います?

中野:気づかないでしょう。だって気づきたくないんだから。自分を誤魔化すための理屈ならいくらでもつけようがありますからね。論理の一貫性などかなぐり捨てて、自分を誤魔化そうとするだけでしょう。

適菜:しかし、一般の人は、それぞれの論者の発言のすべてを追っているわけではないから、一貫性がなくても気づかないですよね。

中野:そうです。普通の人は、そんなに暇ではないし。

佐藤:何が正しいか、見分けるのは簡単です。この鼎談の1回目で言いましたが、新型コロナに関する話を聞いて、溜飲が下がったり、ホッとする思いを感じたりしたら信用しない、それだけでいいんですよ。都合の良すぎる話は疑ってかかる、健全な常識だと思いますが。

適菜:現実を直視できないから嘘のほうを選んでしまう。結局、分かりやすい説明が好きなんですね。

次のページ新型コロナは思想・言論界を揺るがした

KEYWORDS:

中野 剛志
なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。最新刊は『日本経済学新論』(ちくま新書)は好評。KKベストセラーズ刊行の『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編』』は重版10刷に!『全国民が読んだから歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』と合わせて10万部。


佐藤 健志
さとう けんじ

評論家

1966年東京都生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒。1989年、戯曲「ブロークン・ジャパニーズ」で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞受賞。主著に『右の売国、左の亡国』『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』『僕たちは戦後史を知らない』『夢見られた近代』『バラバラ殺人の文明論』『震災ゴジラ! 』『本格保守宣言』『チングー・韓国の友人』など。共著に『国家のツジツマ』『対論「炎上」日本のメカニズム』、訳書に『〈新訳〉フランス革命の省察』、『コモン・センス完全版』がある。ラジオのコメンテーターはじめ、各種メディアでも活躍。2009年~2011年の「Soundtrax INTERZONE」(インターFM)では、構成・選曲・DJの三役を務めた。現在『平和主義は貧困への道。あるいは爽快な末路』(KKベストセラーズ)がロングセラーに。


適菜 収
てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、清水忠史との共著『日本共産党政権奪取の条件』(KKベストセラーズ)など著書40冊以上。現在最新刊『国賊論~安倍晋三と仲間たち』(KKベストセラーズ)が重版出来。そのごも売行き好調。購読者参加型メルマガ「適菜収のメールマガジン」も始動。https://foomii.com/00171

オススメ記事

RELATED BOOKS -関連書籍-

目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】
目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】
  • 剛志, 中野
  • 2019.04.22
平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路
平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路
  • 佐藤 健志
  • 2018.09.15
国賊論
国賊論
  • 収, 適菜
  • 2020.04.21