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文科相にはわからない『柔軟な授業』の教育効果

第38回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

教育

■今の学校に求められているのは「柔軟な判断」

 教育課程(カリキュラム)の編成権が、新型コロナウイルス(新型コロナ)をきっかけにして動きそうな気配がある。
 文部科学省(文科省)が決めた「学習指導要領」によって授業時数なども細かく決められていく現実から、「カリキュラムは文科省によって決められている」と一般的に受け取られているようだ。しかし、教育課程の編成権は学校や教員にもある。それにも関わらず、教員はあたえられたことをやっていくだけになっており、それが教員の仕事を面白くないものにしている一因にもなっている。

 新型コロナの影響で長期休校を強いられたため、学校は学習指導要領を消化するのが困難な状況に陥った。それでも文科省が消化を大前提にしているために、休校から再開した学校では授業時数の確保に追われることになっている。
 しかし、学校はただ慌てふためいているばかりではないようだ。
 岩手県教職員組合(岩教組)が7月20日付で、「『新型コロナ禍』の学校現場から〜『新型コロナウイルス感染症』の影響とその対応から今後の学校を考える白書〜」(以下「白書」と表記)という冊子を作成し、公表している。そこに、アンケート調査の結果がある。県下の444校を対象に行われたもので、427校から回答が寄せられている。実に、98%の回答率である。

 注目すべきは、「教育課程を柔軟に変更し、子どもの学びを保証している」という設問に対して、98%の学校が「YES」と答えていることだ。学習指導要領に沿ってやらなければならないと思われてきた教育課程を、学校が独自に「柔軟に変更」したというのだ。

 具体的には、どのように変更したのか。その例が「白書」に箇条書きで記されている。中でも多かったのが「家庭学習でできそうな内容は宿題とし、学習進度を進めている」というものだ。新型コロナで遅れた授業を挽回するために文科省も教科書の内容を、休校明けの措置として宿題にできるものと授業でやるべきことを仕分けして公表している。といっても、教科書会社にやらせたものだ。しかし岩手県では、それを独自に判断してやっている学校があるわけだ。

 文科省(教科書会社)の仕分けは、全国一律である。ただし、地域や学校ごとに事情は異なる。ある学校では宿題にしても大丈夫だが、別の学校では宿題にするのは難しいため、授業でやるしかない部分ということが、当然ながら存在する。文科省に指示に完全に従うことが、効率の悪化につながりかねない。

■理想よりも現実に根ざした授業を

 例えば、文科省が「宿題」に仕分けした内容を家庭学習としてやれない子が多い場合でも、「宿題で理解した」との前提で授業を進めることになるので、授業も不消化となってしまう可能性が高い。
 しかし、これを学校が独自にやることができれば、その学校の実情に見合った仕分けができることになる。「この内容であれば宿題として家でやらせても大半の子が理解できる」といった判断ができるので、スムーズに授業につなげられる。それでこそ、子どもの学びを保障できるのだ。

 さらに「白書」には、「単元計画を入れ替えてできるところからやっている」とか「教科の単元計画や実施日程などを変更しながらやっている」という報告も載せられている。文科省の指示している順番に従わず、独自に順番を決めてしまっていることになる。

 文科省が決めている学習指導要領は、机上における理想論でしかない。それが、全国のどの学校にとっても最適なはずはない。
 それぞれの状況に応じて「単元計画や実施日程などを変更」した方が、より現実的であり、「子どもの学びの保障」にもつながる。教員にしても、授業を進めやすいはずである。文科省によって決められたものを、その通りにやっていては、それぞれの学校の現状にそぐわなくなる。現状をふまえながら授業を進めていくためには、独自の判断が必要なのだ。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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