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文科相にはわからない『柔軟な授業』の教育効果

第38回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■教員だからわかる、授業の効果的な進めかた

 新型コロナをきっかけに、岩手県の学校はそれらを実践しつつある。もちろん全部の学校でできているかどうかは「白書」だけでは判断できない。それでも、兆しが見えていることだけは確かなようだ。
 こうした動きは他県でも始まっている。今年8月発売の『コロナ時代の教師のしごと』(旬報社)の著者の一人である石垣雅也氏(滋賀県公立小学校教員)は、次の例を紹介している。

「5年生では、国語科の『新聞記事をよみくらべよう』(読む領域)、『環境問題について報告しよう』(書く領域)、『知りたいことを聞き出そう』(話す・聞く)の3つの単元を、個別にではなく『新型コロナウイルス感染症』と共通テーマにした単元学習として構想しています」

 文科省が指示しているのは、それぞれの単元を別々に行うことである。しかし、それだと相応の時間が必要となる。新型コロナでの休校を経た今、それだけの時間を確保するのは難しい。しかし、3単元をまとめてやれば、時間の短縮になる。さらに重要なのは、その方が子どもたちの理解はより深まることだ。石垣氏は続ける。

「コロナの記事を読み比べ、知りたいことをインタビューし、それをもとに報告にまとめる。教科書の題材では関連性が薄い3つの単元を、1つのテーマで横串にすることで、それぞれが意味のある学習となり、時間数も縮減できる。結果として、ゆとりをもって、活動時間を確保できるという発見があったようです」

■文科相ではなく、教員の判断が重要

 教育課程は文科省が決めるものという思い込みを前提にして、新型コロナ前の学校では文科省が決めた通りに授業を進めることに、こだわりすぎていたのではないだろうか。その結果、余計な時間を費やしたにも関わらず、意味の薄い学習になっていた可能性がある。
 短い時間で効果的な学習とし、「子どもの学びの保障」を実現するためには、学校や教員が独自に判断して教育課程を決めていく必要がある。それは、岩手県や石垣氏だけでなく、長期休校から再開した学校で、実は多くの教員が気づきはじめているのかもしれない。

 その「気づき」を大事にし、継続していくために絶対必要になってくるのが、「教員が考える時間」である。増え続ける「雑用」に追われることなく、子どもたちの学びのために多くの時間を割けるようにすることだ。
 新型コロナ禍のなかで萩生田光一文科相は、何度も「子どもの学びの保障」を口にしている。それを実現するためには、新型コロナをきっかけにして、教育課程の編成を主体的に行っていく学校と教員の意識を高めていくべきではないだろうか。そのために文科省は、雑用などは減らし、教員が「考えられる時間」の確保に努めるべきだろう。
 
 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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