「楽しさの利子は馬鹿にならない」ベストセラー作家・森博嗣が指南する幸せになるための単純な理論 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

「楽しさの利子は馬鹿にならない」ベストセラー作家・森博嗣が指南する幸せになるための単純な理論

森博嗣 道なき未知 〈第39回〉「甲斐」VS「やすい」

森博嗣の新刊『道なき未知』が評判だ。例えば氏はこう説く。「苦労はしたくない、生きやすい人生で良い、楽しければそれで良い、とだらだらと日々を過ごしていると、いずれは手詰まりになる」。その理由とは? 本書より「甲斐VSやすい」を紹介。

【道なき未知~「甲斐」VS「やすい」】

■苦労か安易か、どちら?

 「やり甲斐」とか「生き甲斐」とか、近頃では深く考えもせず、綺麗に響くだけの理由でこれらの言葉が使われているようである。もともとは、苦労や苦難に耐えただけの見返りがあった、という意味で用いる言葉であって、やることが楽しい、生きることが面白い、というシンプルな意味では全然ない。むしろその逆なのだ。大人たちが、無意識に綺麗事を繰り返すから、今の若者は、きっとそこを誤解しているだろう。
 九割の苦しみのあとに一割のリターンがあったときに、「甲斐があった」と言う。ようするに、本来は「抵抗感」みたいなものを強調して表現する言葉なのである。
 たとえば、「食べ甲斐がある」といえば、量が多くて食べるのに苦労する、という意味だ。「食べやすい」ではなく、「食べにくい」に近い。したがって、「やり甲斐」と「生き甲斐」は、「やりにくさ」「生きにくさ」に近い意味だから、みんなが探し求めている青い鳥のドリームでは全然ない。
 なにしろこの頃は、料理を褒めるのに、「食べやすい」と言ったりする。「へえ、そうなのか。食べやすいことは良いことなのか」と僕はびっくりする。それ以前に、料理を褒める言葉が、「美味しい」「やわらかい」「ジューシィ」の三つしかなくて、もう少しボキャブラリィを蓄積してからレポートしてほしい、と常々感じているところだ。
 類推するに、今風にいえば、仕事は「やりやすい」方が、人生は「生きやすい」方が断然グッドなのである。そう思っている人たちが大半だろう。それなのに、無理に「やり甲斐」とか「生き甲斐」なんて見つけようとするから、自己矛盾に陥ってしまう。矛盾している点が、わかりますか?
 少なくともどちらかに決めた方が良い。少々苦労をしたいのか、いや全然苦労はご免だというのか。はたしてあなたはどちら?

次のページ探して見つかるものではない

KEYWORDS:

オススメ記事

森博嗣

もり ひろし

1957年、愛知県生まれ。小説家、工学博士。某国立大学工学部助教授として勤務する傍ら、96年『すべてがFになる』で第一回メフィスト賞を受賞し、作家デビュー。以後『イナイ×イナイ』から始まるXシリーズや『スカイ・クロラ』など多くの作品を執筆し、人気を博している。ほかにも『工作少年の日々』『科学的とはどういう意味か』『孤独の価値』『本質を見通す100の講義』『作家の収支』など著書多数。


この著者の記事一覧