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森博嗣 道なき未知「楽しさの利子は馬鹿にならない」

「甲斐」VS「やすい」

■探して見つかるものではない

 根本的に間違っている点がある。それは、苦労か安易かどちらにせよ、「やり甲斐」や「生き甲斐」を誰かからもらおうとしていることだ。「見つけよう」としていることだ。そういうものが、どこかにあると信じている。だから、「この仕事にはない」「私の周囲にはない」となってしまう。
 その言葉の本来の意味が示すとおり、抵抗に遭いながらも、それを成し遂げたとき、本当の「価値」があなたの内から生まれる。したがって、やってこそ、生きてこそ、本人だけが感じるものなのである。周りの誰にもそれは見えないし、誰かが用意してくれたものでもない。
 これは、たとえば、「幸せ」とか「楽しさ」でも同じこと。それを探そうとするのが間違っている。そういうものは、どこにもない。既に存在しているものではなく、これから、生まれてくるものであり、それはあなた自身が作るしかないものなのである。
 だから、苦労はしたくない、生きやすい人生で良い、楽しければそれで良い、とだらだらと日々を過ごしていると、いずれは手詰まりになる。何故なら、初めに「怠ける」という小さな楽しさを先取りして、あとから来る「ツケ」を待つ生活になっているからだ。ようはローンみたいな生き方といえる。楽しさの利子は馬鹿にならない。もしまとまった楽しさを味わいたかったら、コツコツと溜めていくしかない。
 というような話を、実際に僕は人にしたことがない。そんな話を若者に語れば、「年寄りくさい」「教訓はご免だ」と反発されるだけだ。酒の席でなら話せるかもしれないけれど、そこまで格好悪いことをする理由を僕は持っていない。
 ただし、一つだけ言いたいのは、これは経験則ではなく、単純な理論だということである。つまり計算できること、ものの道理だ、という点だ。年寄りとか若者とか無関係に、平均すればそうなっている。逆らえない法則といっても過言ではない。だから、誰が言ったとか、あいつは気に入らないとかで済ませないで、多少は冷静になって考えてもらえれば、と思う。それができる人だけが、大きな失敗を免れるだろう。

 

■いつタイヤを交換するか

 毎年四月の終わり頃に、冬用タイヤからノーマルに履き替える。十一月から冬用なので、ほぼ半年間が冬用である。地球と太陽の関係からいえば、夏と冬が半々なのは自然かもしれない。ちなみに、樹の葉が茂っているのもだいたい半年間である。
 夏はとにかく楽しい。綺麗だし明るいし、とにかく活動的になれる。幸い、ここではクーラが必要ない。車のクーラも使わない。日本の夏とは、だいぶ違っている。

 

今年の冬は雪が少なく、除雪作業がとても楽だった。これから夏に向けて、緑の季節になる。
文:森博嗣

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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