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「分散登校」で顕在化しはじめた学力格差…その是正策と責任

第26回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■学力格差時代がはじまっている

 学習塾にとってはビジネスチャンスになるのかもしれない。
新型コロナウイルス感染症による全国一斉休校要請によって、全国の幼稚園と小中学校、高校などで休校が続いている。その割合は文科省のまとめによれば【国立と公立で87%、私立で76%】という結果だった(※5月11日時点)。つまり、全国一斉休校要請といっても、100%の学校が休校しているわけではない。
さらに、密集を避けるために学年ごとに曜日や時間を分けて子どもたちを登校させる「分散登校」について文科省がまとめたところでは【週1回程度の実施が27%、週2回以上が21%】という状況となっており、その対応には差があるということである。

 5月14日、政府は愛知や福岡を含む39県を対象に緊急事態宣言を解除した。ただし、東京や大阪など8都道府県については、新規感染者の確認が続いていることから解除の対象から外している。これによって、学校再開の動きには、さらに格差が生まれることが避けられなくなった。

 休校中の「学びの保障」を掲げている文科省は、オンラインでの授業を盛んに推奨している。しかし、子どもたちも教員も不慣れなオンライン授業で、たやすく学びの保障ができるわけではない。
子どもたちと教員がやり取りできる「同時双方向型」のオンライン授業について文科省は、公立学校を休校にしている自治体を対象に調査している。その結果を4月21日に発表しているが、「取り組む」と回答したのは、全体の5%でしかない60自治体にとどまった。
これは「できている」との回答ではなく、あくまで「取り組む」という意思表示であり、実現できているかどうかとなると、さらに少数になるだろう。

  

■教員不足の解消なき「机上の空論」

 文科省の「学びの保障」は掛け声だけになってしまっている感が強いのだが、そうしたなかで教育課程の遅れを取り戻す策についての方針を固めたことが、5月13日くらいの報道から明らかになってきている。

 その策とは、今年度中に履修できなかった教育課程を、次の学年に持ち越し、数年かけて取り戻すという内容らしい。たとえば小学2年生で積み残した分を、3年生時の1年間で一緒にやろうということだ。そして、もし、それでも完了できなかった場合は、4年生時にまわすことで、積み残しを少しづつ減らしていき、2〜3年間ですべての教育課程を終えさせるつもりのようだ。ただし、卒業を控える小学6年生と中学3年生については先送りというわけにはいかない。そこで文科省は、彼らを分散登校によって優先的に登校させて、年度中に教育課程を終了させようとしているのだろう。

 この文科省の方針に、「なるほど」と膝を叩く教員がどれくらいいるだろうか。大半の教員は、これを渋い顔で聞いたにちがいない。

 緊急事態宣言が解除されても、それで学校が完全に再開されるわけではない。3密(密閉、密集、密接)を避けるために、文科省はクラスの人数を減らしての授業も指示している。そのために文科省は、図書館や公民館など学校外の施設を教室として使用する案も示すようだ。そうなると、当然ながら教員の数が足りないことになる。小6や中3を優先するために教員を配置すれば、その他の学年では手薄となり、ますます積み残しが増えていくことになる。
すでに1日の授業時数を増やし、夏休みや冬休みを短縮し、土曜日も授業を行う方針を固めつつある自治体も増えている。休校で遅れた分の授業時数を挽回するためだ。それらと、3密を避ける対策を並行して実施しなければならないとなると、充分な人材確保は難しいと思われる。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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