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「分散登校」で顕在化しはじめた学力格差…その是正策と責任

第26回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■「学びの質」は家庭と学習塾で補うしかないのか

 4月10日、文科省は休校中の学習指導について、家庭学習の成果を評価に反映することを求める通知を全国の自治体に出している。これは宿題として課したものも授業と同じように評価に反映するというもので「宿題=授業の代わり」ということになる。授業時数が足りなくなる分を家庭学習で補う策である。つまり、宿題で授業をやったことにされてしまうのだ。

 こうした策で「学びの質」は確保できるのだろうか。すでに保護者は、それを心配しているはずだ。そして、子どもたちの学力低下が現実となった時「その責任は私たちにある」と文科省が矢面に立つだろうか。
残念ながら、ありえない。責任を追求されるのは学校であり、教員である。
しかし、教員の数は足りない。さらに、教員は夏休みや冬休みも返上となり、土曜日の授業も強制される。そうしたスケジュールによって子どもたちのストレスは増え、それによる心の問題が起きることも予想できる。
そうしたなかでも教員は授業を継続しなければならず、しかも結果を求められるのだ。

 夏休みや冬休みを短縮して授業を行っても、文科省がいう「学びの保障」ができるわけではない。それは文科省も承知していることで、5月13日付けの「高校入試における配慮事項に関する通知」では以下のように書かれている。

 「地域における中学校等の臨時休業の実施等の状況を踏まえ、令和3年度高等学校入学選抜等における出題範囲や内容、出題方法について、(中略)必要に応じた適切な工夫を講じていただきたい」

 そして、出題について「地域における中学校等の学習状況を踏まえ、適切な範囲や内容となるよう設定する」などの工夫例も挙げている。
 休校などによって消化できていない教育課程の範囲からは出題するな、ということだが、これが、どの程度配慮されるのか想像できない。学習の遅れは地域や学校によっても格差が生じている状況なのだから、「適切な範囲と内容」を判断するのも難しいだろう。なにより「入試」は選抜なのだから、学習の遅れを配慮して誰もが答えられる問題を出してしまっては問題だろう。競争は激化するしかない。

  

■「子どもと教員」、「保護者と学校」の距離が広がってしまう

 このような事態に学校や教員が対応していくのは並大抵のことではない。保護者からは責任を問われることになるだろうし、学力低下が顕在化した暁には、文科省でさえ学校や教員を責めてくる可能性は高い。
しかし、文科省や教育委員会の指示を待つだけの「物言わぬ教員」にも責任がないとは言い切れないはずである。

 入試に関しての保護者の心配は、すでに顕在化している。分散登校に分散授業と場当たりでしかない学校に、子どもたちや保護者の期待は薄らいでいるかもしれない。そしてそれは、学習塾への期待へとつながっていく可能性がある。
それによって「子どもたちや保護者」と「学校や教員」の距離はますます広がっていくことになるかもしれない。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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