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【「遠い昭和」の風景】鶴見線の引込線の痕跡を訪ねて【後編】

ぶらり大人の廃線旅 第12回

京浜工業地帯初の貨物線

 武蔵白石駅へ戻って、今度は鶴見線の南側に沿う道で浜川崎駅へ向かった。富士電機の工場の中を通り抜けると右手は「JFEスチール東日本製鉄所京浜地区」の巨大な工場。戦前からある日本鋼管川崎製鉄所である。鶴見線が小運河を渡るすぐ右手、工場敷地の中には明らかに鉄道橋のプレートガーダーの橋桁があり、その上が道路になっているが、後で調べるとやはり工場内に戦前から存在した専用線だった。旧町名の名残の「竹の下踏切」を渡ればほどなく浜川崎駅である。日中の電車は鶴見からここまでは20分間隔で運転されているが、この先、扇町方面の昼間の列車間隔は6倍の2時間おきに激減する。

写真を拡大 JFEスチール(旧日本鋼管)製鉄所の構内に残る運河の鉄橋のガーダー(鈑桁)は、今は道路を支えている。

 鶴見線の浜川崎駅から道を隔てて向かい側は南武線(南武支線)の浜川崎駅で、昔から駅が別々であったのは、鶴見線が鶴見臨港鉄道、南武線が南武鉄道という、それぞれ別々の私鉄だったためで、これとは別に国鉄も川崎駅から南武支線にぴったり沿った浜川崎貨物駅までの路線を持っていた。このあたりの路線や駅の変遷は簡単ではない。

写真を拡大 浜川崎駅前の田島踏切から南武支線(尻手方面)のプラットホームを望む。上は貨物線、鶴見線の乗り場は踏切の左手。

 ここに最初に到達した鉄道はその国鉄線で、大正7年(1918)に川崎から線路が開通した当初は東海道本線の支線という扱いで、この一帯では最初に進出した浅野セメント(現太平洋セメント・当地の工場はデイ・シイ)に至る専用線の色合いが濃かった。京浜工業地帯の中心部である川崎・鶴見地区では最も歴史の長い貨物線であり、平成10年(1998)までは奥多摩駅からの石灰列車が南武線経由でここまで乗り入れており、長年にわたって石灰の産地とセメント工場を結ぶルートの終着地だったのであるが、トラック輸送への切り替えを機に同年に廃止されている。

 この廃線を、浜川崎貨物駅東側で県道が線路を乗り越す場所から俯瞰しようと思った。例によって近道はJFEなどの工場構内となるので、首都高横羽線沿いに迂回する。川崎市の、その名も「鋼管通」という町名の最南端がこの旧日本鋼管なのだが、産業道路を東へ向かう。その南側は東海道貨物線の高架である。その高架と産業道路の間は細長い敷地が公園になっているのだが、後で知ったのは、そこが川崎市電(昭和19年~44年)の専用軌道だったとのこと。そのつもりで歩いていなかったので線路の痕跡はわからなかった。

 浜町の交差点で県道101号を南下、浅野セメントの敷地(現デイ・シイ)に目を凝らすが、草が生い茂っている部分が線路だったのだろうか。それらしきものはまったく見えない。浜川崎貨物駅の見える西側へはガードレールがあって横断できないので、昭和駅まで行って帰路に見ることにしよう。間もなくトラス橋が上を跨いでいるが、これがかつて浅野セメントと日本鋼管を結んでいた専用鉄道のものらしい。現在ではパイプラインのようなものを載せているだけだが、それにしては立派過ぎるので、やはり以前は鉄道橋だったのだろう。

写真を拡大 かつて浅野セメントと日本鋼管を結んでいた貨物線のものと思われる立派なトラスは、今は各種パイプ類を支えている。

 

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今尾 恵介

いまお けいすけ

1959年横浜市生まれ。中学生の頃から国土地理院発行の地形図や時刻表を眺めるのが趣味だった。音楽出版社勤務を経て、1991年にフリーランサーとして独立。旅行ガイドブック等へのイラストマップ作成、地図・旅行関係の雑誌への連載をスタート。以後、地図・鉄道関係の単行本の執筆を精力的に手がける。 膨大な地図資料をもとに、地域の来し方や行く末を読み解き、環境、政治、地方都市のあり方までを考える。(一財)日本地図センター客員研究員、(一財)地図情報センター評議員、日本地図学会「地図と地名」専門部会主査、日野市町名地番整理審議会委員。主著に『日本鉄道旅行地図帳』『日本鉄道旅行歴史地図帳』(いずれも監修/新潮社)『新・鉄道廃線跡を歩く1~5』(編著/JTB)『地形図でたどる鉄道史(東日本編・西日本編)』(JTB)『地図と鉄道省文書で読む私鉄の歩み1~3』『地図で読む昭和の日本』『地図で読む戦争の時代』 『地図で読む世界と日本』(すべて白水社)『地図入門』(講談社選書メチエ)『日本の地名遺産』(講談社+α新書)『鉄道でゆく凸凹地形の旅』(朝日新書)『日本地図のたのしみ』『地図の遊び方』(すべてちくま文庫)『路面電車』(ちくま新書)『地図マニア 空想の旅』(集英社)など多数。


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