【西武鉄道安比奈線【後編】街から森の中へ進む電車道】 | BEST T!MESコラム

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西武鉄道安比奈線【後編】街から森の中へ進む電車道

ぶらり大人の廃線旅 第8回

上下とも1:25,000「川越南部」上は昭和44年(1969)修正、下は平成17年(2005)更新。上図は休止中にもかかわらず現役線の記号で描き、下は休止記号で描くべきところを一足先に消してしまっている。赤字は筆者の加筆

 

■珍しいポーナル桁と森の散歩道

 橋桁に記されたペイントは錆びてまったく判読できないが、橋桁を縦向きに補強している補鋼材の形を見て嬉しくなった。両端が曲がって接続されてるのが特徴の「ポーナル桁」ではないか。正式には「鉄道作業局錬鉄式鈑桁(ばんげた)」と称し、英国人技師ポーナルにちなむ英国式の桁だが、老朽化や荷重の強化により取り換えられて今では珍しくなっている。主に明治期のものなので、この桁はおそらく幹線で使われていたものを、規格の低いこの支線を安上がりに建設するために払い下げられたのではないだろうか。築堤を上がって橋梁を俯瞰したが、隙間だらけのこの橋を渡って万が一の落下などすれば迷惑がかかるので、写真を撮っただけで用水路をはるばる迂回した。それにしても、あのポーナル桁を捨ててしまうのはもったいない。なんとか現地で保存できないものだろうか。

      

写真を拡大 赤間川の橋梁。明治期と思われるポーナル桁のプレートガーダー(鈑桁)が用いられた貴重なもの。川越市大袋新田。

 

 

写真を拡大 踏切跡。古い里道に設置されていたもので、常に自動車のタイヤで磨かれているので、ここだけはレールも光っている。川越市大袋。

写真を拡大 畑の傍らをまっすぐ進む線路。用水を跨ぐ橋梁は朽ち始め、用水路にも水がなかった。

 周囲は新しい家も少しずつ建っているが、基本的には農村的なたたずまいである。その中をまっすぐ伸びる「廃線」は草むらの中を通り、小さな用水を渡ってひたすら直進、やがて森の中へ入っていく。ここは地元の地名をとって「池辺(いけのべ)の森」と呼ぶらしい。この区間も立入禁止だが、脇から1人だけ入れる隙間がちゃんと空けられていた。粋な計らいである。

池辺(いけのべ)の森の中に残るレール。静かな散歩道として再利用できないだろうか。

 落ち葉に埋もれつつも鈍い光を放つ2条のレールと鬱蒼たる木立が、何ともいえず雰囲気をもった散歩道にしている。廃止するにしても、このままの姿で遺すことはできないだろうか。昨今の廃線跡は、カラー鋪装でレールの形を模したタイルなどを埋め込むといった無粋なことをしがちであるが、これを放置しても誰も怪我などしないだろう。

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今尾 恵介

いまお けいすけ

1959年横浜市生まれ。中学生の頃から国土地理院発行の地形図や時刻表を眺めるのが趣味だった。音楽出版社勤務を経て、1991年にフリーランサーとして独立。旅行ガイドブック等へのイラストマップ作成、地図・旅行関係の雑誌への連載をスタート。以後、地図・鉄道関係の単行本の執筆を精力的に手がける。 膨大な地図資料をもとに、地域の来し方や行く末を読み解き、環境、政治、地方都市のあり方までを考える。(一財)日本地図センター客員研究員、(一財)地図情報センター評議員、日本地図学会「地図と地名」専門部会主査、日野市町名地番整理審議会委員。主著に『日本鉄道旅行地図帳』『日本鉄道旅行歴史地図帳』(いずれも監修/新潮社)『新・鉄道廃線跡を歩く1~5』(編著/JTB)『地形図でたどる鉄道史(東日本編・西日本編)』(JTB)『地図と鉄道省文書で読む私鉄の歩み1~3』『地図で読む昭和の日本』『地図で読む戦争の時代』 『地図で読む世界と日本』(すべて白水社)『地図入門』(講談社選書メチエ)『日本の地名遺産』(講談社+α新書)『鉄道でゆく凸凹地形の旅』(朝日新書)『日本地図のたのしみ』『地図の遊び方』(すべてちくま文庫)『路面電車』(ちくま新書)『地図マニア 空想の旅』(集英社)など多数。


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