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歯科医師を悩ます新型コロナ感染リスク

【第5回】斎藤先生がこっそり教える 歯医者のホント~「歯科の駆け込み寺」~

歯医者にまつわる疑問や裏話を、歯科患者の「最後の駆け込み寺」として知られる斎藤正人歯科医師がこっそり教えます! 毎週金曜日更新!

■クリーニングは半年に1回で十分

 「新型コロナウイルスが世界を脅かす中、歯のクリーニングなど、不要不急の通院は控えるべきだと、私はこの連載で再三再四、述べてきました。ところが、それを読んだ女性の方から私の歯科医院に抗議の電話がかかってきたのです」

 近年、歯科医院の多くは経営にリコールという手法を取り入れている。治療が一段落した患者に、以降もハガキや電話で定期健診を呼びかけるのだ。歯科のリコールでは、2~3ヵ月ごとの通院を促す場合が多い。そこで行われるのは歯の状態を診ることと、クリーニングである。斎藤正人歯科医師はリコールというやり方は否定しないものの、それがあまりにもビジネス目的になっていることを問題視する。

 「歯科医院での歯のクリーニングは半年に1回で足りるというのが私の考えです。女性の抗議はそれだけでは不十分で、もっとやるべきだというもの。最初、歯科にかかっている患者さんかと思ったのですが、聞いていると、どうも違うような感じです。そのうち、歯科医療に関する専門用語がポンポンと飛び出し、どうも業界の人間であるらしいことがわかってきました」

 この女性は、斎藤歯科医師が歯科に通院する回数を減らそうと誘導しているように感じ、不満を持ったようだ。「患者さんの側に立ってものを考えることが、結局は歯科医療界のプラスになると思っているのですが」と斎藤歯科医師は苦笑する。ただでさえ経営的に苦境に陥る歯科医院が多い中で、斎藤氏のような歯科医師は異端に映るのかもしれない。

 なお、斎藤歯科医師が主張する歯のクリーニングが半年で1回というのは、あくまでも歯科医院に通院しての話。それ以外は、患者一人ひとりが自身でケアすれば、こと足りると言っているのである。

 「歯みがきについてはインターネットを見れば、いくらでも有効な方法が調べられると思うので省略しますが、それ以外にも私が患者さんに勧めてきた自宅でできるケアの方法があるのです。それについては次回以降に紹介しますが、歯科医院に頻繁に行かなければ、歯のケアができないということは決してない。ましてや、現在の状況を考えれば、歯のクリーニングのためだけに歯科医院に来させるというのは、歯医者の姿勢としていかがなものかと思います」

■難しい「不要不急」の線引き

 政府も新型コロナ禍における歯科医療に対して、ようやく重い腰を上げた。4月6日、厚生労働省医政局歯科保健課は全国各自治体の衛生主管部(局)に対し、「歯科医療機関における新型コロナウイルスの感染拡大防止のための院内感染対策について」と題する連絡文書を送付。それを受け、各衛生主管部はその文書を管轄する地域の歯科医院に配布した。

 そこでは、院内感染の予防策の徹底に加え、「歯科医師の判断により、応急処置に留めることや、緊急性がないと考えられる治療については延期することなども考慮すること」と記されている。はっきり言ってしまえば、不要不急の診療はしないでくれということである。当然、歯のクリーニングが不要不急の診療であるのは異論がないだろう。

 「では、どこまでが不要不急の範囲なのか。歯医者の側は患者さんから治療してほしいと言われれば、受け入れざるをえませんが、メンテナンスのようなものを除いて、その線引きは非常に難しい。いまは電話予約が大半で、医院にいきなり来る飛び込みのケースはほとんどないので、予約受付の段階である程度、相手の様子を把握できる。その内容によって、歯医者側が診療を拒否することはありませんが、新型コロナが猛威を振るう中で、患者さんの側もやみくもに歯医者にかかるわけにはいかないでしょう」

 

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KEYWORDS:

『歯医者のホントの話』 斎藤正人/田中幾太郎

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斎藤 正人

さいとう まさと

サイトウ歯科医院

院長

1953年東京都生まれ。神奈川歯科大学大学院卒。極力、歯を抜かずに残す治療を心がけ、「抜かない歯医者」を標榜する。一昨年9月『この歯医者がヤバい』(幻冬舎新書)を上梓。


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