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日本に「英語教育」がなくなる日

「最小限主義の心理学」不定期連載第8回

 幼児は「二つの言語」を同時に習得できる

 それでは、日本語はどうなるのだと思うかもしれない。家では妻が普通に日本語で話しかけていた。私は当初「英語を教える」という意気込みがあったが、妻は「教える」という姿勢はまったくない。ただ話しかけるだけだ。結局、日本語も英語と同じペースで覚え、3歳になった今は、二つの言語を上手に使いこなしている。お叱りのメールでは、言語における幼児教育の理論をもとに私の方法との違いを指摘されたが、違うのだとするとその理論は間違っている。科学的な証明など私にはできないが、結果は結果として覆らない。私が知ったことは、幼児は2歳から3歳までに二つの言語を同時に習得できるし、どちらも「教育」の必要はないということだ。どの言語も方法は同じで、ただ話しかけるだけだ。
 このミニマルな方法が、どうしても拒否感を生むらしい。「想像するに(日本人である)あなたの下手な英語で教えても、子どもの発音が悪くなるだけ」ともメールには書かれていた。
ネイティブより下手かもしれないが、発音は立派なものだ。ある日、娘は大好きなアニメの、あるエピソードを検索してほしいと私に言ってきた。「Mama Hook knows best」と言うので、適当に言ってるなと思いつつ、打ち込んでみると同じタイトルのエピソードが出てきた。アニメの冒頭で主人公がタイトルを読み上げるので、それを聴き取って覚えていたらしい。そのままのアクセントと発音で彼女はタイトルを言っていた。残念ながら、発音は決して私だけから習得しているわけではない。最初のころは、娘のネイティブ並の発音を私が聴き取れないときだってあった。

 母国語としての言語習得は、3歳までに終わる

 母国語としての言語の習得は、日本語と英語を同時にやっても、3歳までに終わる。当然、年相応に拙いが、意思疎通がとれるまでになる。難しい議論ができなくても、本を読めなくても、「はい」「いや」「それがほしい」「もっとちょうだい」といった日常生活で必要な言葉を、その言語のルールで言うことができる。小学校入学までには、会話力は相当なものになっている。
 その後の考え方は各家庭によるが、私の場合は今後、熱心に英語の読み書きを教える予定はない。最低限として、アルファベットやスペルは教えたいが、自主性を尊重したい。日本語においては当然、必ず、読み書きの学習を小学生あたりからしてほしいと思う。
 すべての日本人の子どもに対して0歳から話しかけろとは言わないが、難しいことはない。日本人の親で、留学経験も英会話教室にも行ったことがない私でもできたことだ。英会話の習得において、この容易さが受け入れられれば、基礎的な英会話の能力は日本人にとってノーマルなことになる。あとの読み書きに関して、必要であれば学校の英語教育で行う。今後も早期の英語習得に対して反対意見が根強く主張されるから、すぐにそういう時代が来ることはないが、問題点ばかり考えていても時代は進まない。
 自分の子どもに英会話力を身につけさせるには、勉強ではなく、「英語で話しかける」や、「その言語のアニメや映画を観る」ことだけで成り立つ。0歳から3歳までに行うのが最適なのは間違いないが、その理由がわかれば、3歳からでも、大人でも同じように英会話力を身につけることができる。日本人の英語との付き合い方、関係は、間違いなく変わるはずだ。

 

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沼畑 直樹

ぬまはた なおき

ミニマリスト。テーブルマガジンズ代表。元バックパッカー。

2013年、「ミニマリズム」「ミニマリスト」についての記事を発表し、佐々木典士氏とともにブログサイト≪ミニマル&イズム(minimalism.jp)≫をたち上げる。 著書は、小説『ハテナシ』、写真集『ジヴェリ』『パールロード』(Rem York Maash Haas名義)など。


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