大食いと早食い【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」45品目
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」45品目
かつて某編集部の同じ班にいた女性編集者も、見かけによらず大食いだった。どちらかといえば小柄な部類で、大人しい感じ。班のメンバーで食事や飲みに行っても、あんまりしゃべらない。しかし、後半になればなるほど存在感を増すのは、その食いっぷりゆえだ。とにかく黙々とひたすら食っている。大皿に残った料理を「これ食べちゃっていいですか?」と片っ端から食べ尽くす。こういう人が一人いると、注文時にあれもこれもと欲張って頼んでも残さずに済むという、大変ありがたい存在だった。
それこそ「大食い番組出られるんじゃないの?」と周りは冗談半分で言っていたが、彼女の場合、量は食べるがスピードはないので、テレビ向きではない。その代わり、いつまででも無限に食べている。彼女の口から「もうお腹いっぱいです」という言葉を聞いたことがない。大食いであることは間違いないが、早食いではないのである。
しかし、世間で「大食い」と言うときには「早食い」要素も含んでいることが多い。大食い番組は、たいてい制限時間内にどれだけ食べられるかを競うものだし、K飯店のチャレンジメニューも1時間という制限時間がある。それがなければ彼女なら餃子100個ぐらい完食できそうな気がする。
一方、私はといえば、大食いではまったくないが比較的早食いではある。今は胃腸のことを考えてよく噛んで食べるよう心掛けているが、若い頃は昼メシなんて飲み込む勢いで5分か10分で終わらせるのが常だった。嚥下力も今と違って優れていたので、味噌汁やスープなどなくても平気。何なら水やお茶も必要ないくらいだった。というか、私に限らず30代ぐらいまでの健康な男子はだいたいそんなもんだろう。
そんな30代も終わりの頃。当時担当していたゲッツ板谷さんの『出禁上等!』という連載の取材で「わんこ豆腐早食い大会」に出場したことがある。伊勢原市の名物イベント「大山とうふまつり」の一環で、90秒間に豆腐を何杯食べられるかを競う。1杯分の豆腐は4分の1丁で、食べ終わると同時に注ぎ足されるわんこそば方式だ。
もちろん主役は板谷さんだが、ネタとして担当編集もやらないわけにはいかない。豆腐なんてほぼ液体みたいなもんだし、ツルツル飲み込めばナンボでもいけんじゃね? と思っていたら大間違い。豆腐といえども飲み込むのはそれなりに大変で、3杯目ぐらいまでは快調だったものの、意外と腹にも溜まってくる。結局6杯で制限時間が来てしまった。
そして、私の次の組に登場した板谷さんは見るからに食いしん坊なデブキャラなため、取材のカメラが「こいつはやりそう!」と寄ってくる。が、健闘むなしく7杯でフィニッシュ。1杯が4分の1丁だから、7杯なら2丁弱。時間があればもっと食えるかもしれないが、早食いでは豆腐もなかなか手強いのだ。