ジャニーズ問題で改めて考える。「大人と未成年者の性行為は、いかなる場合も大人に非がある」ということ【渡辺由佳里】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ジャニーズ問題で改めて考える。「大人と未成年者の性行為は、いかなる場合も大人に非がある」ということ【渡辺由佳里】


ジャニー喜多川の性加害疑惑をBBCが報じたことがきっかけで白日の下に晒され、これまでその事実を否定し続けてきたジャニーズ事務所が認めた。新社長に就任した東山紀之は、「噂では聞いていた」「鬼畜の所業」などと語ったが、同事務所のタレントの広告起用をやめる企業が相次いでいる。エッセイストの渡辺由佳里氏は、自著『アメリカはいつも夢見ている』(KKベストセラーズ)のなかで、「大人と未成年の性行為」における是非について、現代アメリカ事情を通して鋭い論考を発表している。今回はその抜粋を公開(2018年5月2日cakes掲載)。


ジャニー喜多川による性加害問題でジャニーズ事務所新社長東山紀之らが会見(202397日)

 

■被害者の立場を考えられない「想像力の欠如」

 

 男性アイドルグループの元メンバーが自宅に女子高生を呼び出し、無理やりキスをして強制わいせつ容疑で書類送検されたことが話題になった。1993年に日本から海外に移住した私はこのアイドルグループのことを知らないし、芸能ネタには元々あまり興味はない。だが、「46歳の加害者が仕事を通じて知り合った未成年者に強制的な性的行為を行った」という事実に対し、ソーシャルメディアでは被害者のほうを責めたり、加害者を擁護したりする人が多いことには驚いた。これは加害者も認めている事実なのに。

 特に多かった意見が「夜中に呼び出されて男の自宅に行くほうが悪い」というものだ。「高校生にもなっているのだから、男の自宅に行ったら何が起こるかわかっているはず」、「金を目当てで、(加害者を)罠にはめたのだろう」というものまであった。それ以外にも、「なんでもかんでもセクハラ騒ぎになる。これでは男は怖くて女に言い寄れないし、恋愛もできなくなる」といった内容の嘆きも目にした。

 こういった見解は、被害者の立場になって状況や心理を考えることができない「想像力の欠如」が原因なのだと思う。SNSにあふれる被害者批判の根源にある視点の過ちのすべてを説明すると紙面が足りなくなるので、今回は、「大人と未成年者の間の性行為は、いかなる状況であれ、大人が加害者の犯罪である」という根本的な部分に絞って説明したいと思う。

 アメリカでは「Statutory Rape(法定強姦/法定レイプ)」という単語がニュースでよく使われる。それゆえ、よほど社会問題に疎い人でないかぎりだいたいの意味は知っている。

 通常「法定強姦」は、性行為を同意できる年齢に達していない子どもに対して大人が行う「強制」を伴わない性行為を意味し、同意がない強制的な性行為である「レイプ」とは分けて使われる。つまり、子どもがたとえ同意の意思表明をしたとしても、性行為を行った大人のほうが常に犯罪の加害者ということになる。特にStatutory Rapeという表現は被害者が思春期以降の年齢に対して使われ、それ以下の年少の場合には、Child Sexual Abuse あるいはChild Molestation(どちらも児童性的虐待)という表現がよく使われる。

「法定強姦」にならない「性行為の合意可能な年齢」はアメリカでも州によって異なるが、16歳から18歳の範囲である。「それなら未成年同士でセックスしても犯罪とみなされるのか?」という疑問はあるだろう。実際に、12歳のボーイフレンドと合意のうえでセックスした13歳の少女が「法定強姦」で有罪判決を受けたカリフォルニアの例もある。だがこれは非常に稀なケースで、全米から非難が押し寄せた。

「法定強姦」はもともとティーンの恋を罰するために作られた法律ではない。だから、多くの州には「ロメオとジュリエットの法」というものがある。シェイクスピアの原作ではロメオの年齢が明確ではないが、多くの説ではジュリエットは13歳、ロメオはその2〜3歳年上のティーンだと解釈されている。州により異なるが、「ロメオとジュリエットの法」では二人の年齢差が4歳までは処罰の対象にならないか刑が軽くなる。

「法定強姦」の法律が生まれた理由は、大人と子どもの関係が根本的に対等ではないからだ。だから性行為を行った二人の年齢差が重要な要素になる。

 未成年者には成人と同等の法的権利はなく、経済的にも社会的にも非力である。また、子どもの心身はまだ発達途中であり、肉体の成熟度、性や人間関係の理解においても子どもと成人は同等ではない。性行為がもたらす可能性がある心身の影響についても、子どもは自分で責任を取ることができる立場にない。

 このような不平等な関係においては、大人は子どもを身体的にも心理的にも圧倒することができ、心理的に操作するのも容易だ。つまり、対等な関係になりえない大人と子どもの間では子どもは真の意味での「性行為の合意」をすることが不可能だという考え方だ。

 ゆえに、大人による子どもへの性行為は、暴力や強制がなくても、たとえ子どもが言語で同意しても、真の意味での「同意」とはみなされず、法的な処罰の対象になるのだ。

 こういった話題で具体的な例をあげても、「男はいつも女に責められる」という先入観のためなのか、被害者の視点で読んでもらえないことが多い。そこで、今回は被害者も加害者も「男性」の例で説明したい。

次のページカトリック教会による児童性的虐待スキャンダルの真相

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✳︎渡辺由佳里著『アメリカはいつも夢見ている』✳︎

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渡辺 由佳里

わたなべ ゆかり

エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家。助産師、日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、1995年よりアメリカ在住。ニューズウィーク日本版に「ベストセラーからアメリカを読む」、ほかにCakes、FINDERSなどでアメリカの文化や政治経済に関するエッセイを長期にわたり連載している。また自身でブログ「洋書ファンクラブ」を主幹。年間200冊以上読破する洋書の中からこれはというものを読者に向けて発信し、多くの出版関係者が選書の参考にするほど高い評価を得ている。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。著書に『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)、『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)などがある。翻訳には、糸井重里氏監修の『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)など。

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