私がスポーツジムに通う理由【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』36品目
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」36品目
そりゃもう猫に「ちゅ~る」の袋を見せたようなもんで、脇目も振らず突進だ。席に着くか着かないかのうちに「生ください」。待つことしばし、冷えたジョッキに注がれたビールをゴッゴッゴッと飲んだときの幸福感たるや……! このためにジムに通っていると言っても過言ではないというか、完全にこのために通っているとしか言えない。この一杯を最高の状態で味わうため、トレーニング中の水分補給も極力控えるほど。最後のインターバル走の頃には、もはやビールのことしか頭にない。
至福の一杯で少し落ち着いたところで、次は栄養補給である。よく知らないが、筋トレのあとにはタンパク質を補給したほうがいいと聞く。ここはひとつ、大豆タンパクが豊富な冷やっこをいただこう。夏の暑い日にビールと冷やっこは最高のコンビネーションだ。疲れた筋肉と同時に心も癒されていく。
夏バテ防止のためにはビタミンや鉄分なんかも必要だろう。砂肝ポン酢も頼んじゃおうかな。これまたビールとの相性いいんだよね……とか言ってるうちにジョッキは空に。本当はここから焼酎ロックへとなだれ込みたいところだが、まだ昼間だし仕事もある。ぐっと我慢して、ハムエッグ定食(ご飯少なめ)で締めるのだった。
もちろん日によって冷やっこが厚揚げ焼きになったり、砂肝ポン酢が鶏レバ生姜煮になったり、ハムエッグ定食が豚しょうが焼き定食になったりするわけだが、この店で飲んで食うことがジム通いの原動力になっていたことは間違いない。ダイエット目的ではないので、飲み食いすることは全然OK。むしろそれで筋肉がつけばありがたいが、入会3カ月後に測定したら、体重も筋肉量も体脂肪も特に変化がなかった。それなりに真面目にトレーニングしているというのに、いったいどういうことなのか。
結果が数字に表れないと、いささかモチベーションが下がる。季節が夏から秋、さらに冬へと移り変わると、ビールの至福度も下がっていく。それでも週1~2回の習慣として地道に通っていたのだが、好事魔多し。そこにコロナがやってきた。
最初のうちは使用後に器具を消毒するぐらいで済んでいたが、2020年4月には1回目の緊急事態宣言が発令され、ジムも飲食店も休業を余儀なくされる。その後、一旦は解除されたものの、2021年にはまた長期にわたって発令された。東京都による「まん防」こと「まん延防止等重点措置」や「東京アラート」なんてのもあった。都庁やレインボーブリッジが赤く染まったのを覚えている方も多いだろう。