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ワグネル反乱と「現実の解体」【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」49

ロシア民間軍事会社ワグネルが反乱を起こし、南部国境の州都に進軍したエフゲニー・プリゴジン(2023年6月24日)

 

◆反乱の経緯を振り返る

 終結のメドが立たないウクライナ戦争ですが、この6月、世界の注目を集める事件が起こりました。

 ご存知、ワグネルの反乱です。

 まずは経緯から。

 

 ワグネルはロシアの民間軍事会社。

 2014年、同国によるクリミアへの軍事介入と相前後して設立されます。

 ウクライナのドンバス地方では、くだんの介入直後から分離独立派(=親ロシア派)が蜂起、内戦状態となるものの、ワグネルは2014年から2015年にかけて分離独立派を支援、注目を集めました。

 その後はシリア、リビア、マリ共和国などで内戦に関与したと伝えられますが、ウクライナ戦争でも大きな役割を果たすことに。

 服役中の囚人を勧誘して兵士に仕立て、前線に送り込んでいるとかで、過去一年の間に「ロシアを支配する軍や治安機関のエリートに匹敵する権力基盤を持つようになった」のです。

 

 しかしそれとともに、軍との対立も深まる。

 ワグネルの創設者で、リーダーでもある富豪のエフゲニー・プリゴジンは、国防大臣のセルゲイ・ショイグと、参謀総長のワレリー・ゲラシモフを長年、目の敵にしてきたそうですが、投稿動画で両者を公然と罵倒するにいたります。

 プリゴジンと個人的なつながりがあるうえ、側近同士の対立を煽ることで権力を維持してきたプーチンは黙認を決め込みました。

 

 けれども6月、事態は急展開を見せる。

 ショイグが「志願兵部隊」、つまり民間軍事会社の戦闘員を国軍に編入すると発表したのです。

 そしてプーチンもこれを支持!

 激怒したのでしょう、プリゴジンはショイグとゲラシモフの拘束を画策。

 ところがロシアの連邦保安庁がこれを察知してしまう

 

 プリゴジンは計画を変更、「この戦争は名誉欲に駆られた軍上層部が、ウクライナで暴利をむさぼろうとする富裕層と結託、大統領や国民を騙して始めたもの」という趣旨の声明動画を623日に発表します。

 そしてロシア南部のロストフ州に部隊を移動させ、州都ロストフ・ナ・ドヌにあるロシア軍南部軍管区司令部を制圧したと主張。

 さらにはモスクワまで向かおうとしたものの、24日、プーチンが厳しい措置を取ると宣言するや、一転して進軍中止を表明、南部軍管区司令部付近の部隊も撤退させました

 

 プリゴジンはその後、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の仲介で同国に入ったと報じられます

 プーチンはワグネル戦闘員にたいしても、ロシア軍に入るのでなければ、ベラルーシに向かってよいと述べていますが、今後どうなるかは予断を許しません

 

 と、筋道立ててまとめてはみましたが・・・

次のページ事態の本質は「何でもあり」だ

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佐藤 健志

さとう けんじ

佐藤健志(さとう・けんじ)
 1966年、東京生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒業。
 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。
 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。
 主著に『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)、『右の売国、左の亡国 2020s ファイナルカット』(経営科学出版)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)など。共著に『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』( VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』( PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年12月、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。
 2019年いらい、経営科学出版よりオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻に続き、現在は『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻が制作されている。

 

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