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お花見といえば桜だよね……って、昔は違っていたのか?

「生活と文化」にまつわる絶滅危惧知識


日本の春の風物詩といえば「花見」である。そんな花見で愛でる花は、いつから桜が定番になったのか、といった素朴な疑問に答える小文を収めたのが、『百年先まで保護していきたい 日本の絶滅危惧知識』(KKベストセラーズ刊)だ。監修はNHKの番組『チコちゃんに叱れる!』でもお馴染みの、日本の民俗学者の第一人者・新谷尚紀先生が務めています。


上野公園の満開の桜

 

■奈良時代の花見の定番とは

 

 お花見に行こうと言ってタンポポや菜の花を見に行く人がいたら、よほどの詩人か変わり者だろう。やはりお花見と言えば桜。桜以外のお花見なんて普通は聞かないものだ。しかし、昔は今と違って別の花がお花見の定番だったという。いったい桜より観賞されていた花とはどのような花だったのだろうか。

 その答えは『万葉集(まんようしゅう)』を見てみるとわかる。春に咲く花のなかでもっとも多く歌われているのは梅の花で、その数は110首にものぼる。中国からやってきた梅の花は高貴な花として奈良時代の貴族たちに好まれ、大伴家持(おおとものやかもち)や山部赤人(やまべのあかひと)など万葉を代表する数々の歌人たちに詠(よ)まれた。一方、桜を詠んだ歌は43首にとどまり、梅のおよそ3分の1。文句なしに梅の圧勝である。

 ちなみに、季節を問わなければ、一番多く歌われた万葉植物は萩の花で、140首以上もの歌が詠まれている。花といえば春は梅、秋は萩というのが奈良時代の人たちの感覚だったのだろう。

 しかし梅の花の人気は不動のものではなく、平安時代になると次第に主役の座を桜に奪われるようになる。『古今和歌集(こきんわかしゅう)』では、一転して梅より桜のほうがはるかに多く詠まれ、歌のなかで「花」というだけで桜を指すようになった。そして近代になると品種改良されたソメイヨシノが急速に普及し、現在のような桜のお花見の光景が広がるようになったのだ。

 

■文/吉川さやか(よしかわ・さやか)

早稲田大学卒業後、出版社などでの勤務を経てイタリア、ドイツに留学。ライプツィヒ大学にて言語学を学ぶ。帰国後は編集者、企画制作ディレクターなどとして活動。

 

■監修/新谷尚紀(しんたに・たかのり)

1948年広島県生まれ。国立歴史民俗博物館教授、国立総合研究大学院大学教授等を経て、現在、両名誉教授。著書に『生と死の民俗史』『民俗学とは何か』『神道入門 民俗伝承学から日本文化を読む』など多数。

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吉川さやか/新谷尚紀

よしかわ さやか しんたに たかのり

吉川さやか(よしかわ・さやか)

早稲田大学卒業後、出版社などでの勤務を経てイタリア、ドイツに留学。ライプツィヒ大学にて言語学を学ぶ。帰国後は編集者、企画制作ディレクターなどとして活動。

 

新谷尚紀(しんたに・たかのり)

1948年広島県生まれ。国立歴史民俗博物館教授、国立総合研究大学院大学教授等を経て、現在、両名誉教授。著書に『生と死の民俗史』『民俗学とは何か』『神道入門 民俗伝承学から日本文化を読む』など多数。

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  • 吉川さやか
  • 2022.06.20