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ウクライナ侵攻とナショナリズムのねじれ【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」43

プーチン大統領

 

◆単純な解釈を許さない戦争

 ロシアによるウクライナ侵攻は、開始から3ヶ月半を過ぎた今も、終結の見通しが立ちません。

 これは今回の戦争(表向きの呼称が何であれ、戦争なのは明白でしょう。防衛省の防衛研究所も「ウクライナ戦争」と呼んでいます)が、単純な解釈を許さない、多面的で込み入った性格を持っていることと深く関連しているように思われます。

 

 まず〈平和に暮らしていたウクライナに、悪いロシアがいきなり攻め込んできた〉という解釈は成り立たない。

 過去20年近く、ウクライナはNATO加盟による欧州への統合を掲げるなど、反ロシアの姿勢を明確にしてきたのです。

 現在の危機の発端となったのも、2012年、親ロシア派と目されたヴィクトル・ヤヌコーヴィッチ大統領までが、EUとの連携強化をめざす姿勢を見せたことでした。

 

 かと言って、〈勢力の東方拡大をめざす米欧が、ウクライナを使ってロシアを追い詰めたせいで侵攻が起きた〉という解釈も怪しい。

 この解釈は、以下の二つの前提なしには成立しないためです。

(1)米欧がウクライナを放っておけば、ウクライナが反ロシアに走ることはなかった。

(2)米欧がウクライナを放っておけば、ロシアもウクライナを好きにさせておいた。

 

 一番目の前提が成立しないのは、もはや説明不要でしょう。

 アメリカがウクライナのNATO加盟を正式に提案したのは2008年ですが、ウクライナ自身はその5年前、2003年から加盟をめざしていました。

 2010年代はじめ、ヤヌコーヴィッチ政権のもとでいったん取り下げられるものの、同政権の崩壊(2014年)とともに復活、2019年には憲法に明記されるまでにいたります。

 

 二番目の前提についても、プーチンはプーチンで「ユーラシア連合」という地域覇権戦略を提唱している。

 旧ソ連加盟国をまとめあげ、EUに対抗する国際秩序をつくろうとするものながら、ウクライナをここに加えられるかどうかは、ロシアの勢力圏がヨーロッパに及ぶかどうかを左右する。

 米欧が「東方拡大」をめざしていたとすれば、こちらは「西方拡大」をめざしていたのです。

 

 ところが肝心のウクライナは反ロシア。

 ならば米欧の戦略とは関係なく、遅かれ早かれ、プーチンは侵攻に打って出たと言わざるをえないのであります。

 

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【佐藤健志氏によるオンライン読書会のお知らせ】

 

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 「強兵なくして主権なし〜ロシアの視点を理解して、日本が取るべき戦略をつかめ」

 

 ◆開催日時:2022年6月18日(土)14:00〜16:00

     講義  14:00〜15:30

     Q&A 15:40〜16:00

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佐藤 健志

さとう けんじ

佐藤健志(さとう・けんじ)
 1966年、東京生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒業。
 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。
 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。
 主著に『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)、『右の売国、左の亡国 2020s ファイナルカット』(経営科学出版)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)など。共著に『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』( VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』( PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年12月、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。
 2019年いらい、経営科学出版よりオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻に続き、現在は『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻が制作されている。

 

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