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ウクライナ侵攻とナショナリズムのねじれ【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」43

◆ロシアは国外の同胞を支援する

 他方、ロシアは2008年、大統領ドミートリー・メドベージェフが「他国に居住する同胞(注:このような人々を「ディアスポラ」と呼びます)の権利が侵害されれば、ロシアは武力を用いてでも彼らを救済する権利がある」旨を表明します。

 その直前、ロシアはジョージア(グルジア)に侵攻していますので、帝国主義的・覇権主義的な行動を正当化する理屈をこねたわけですが、ディアスポラの目にこれはどう映るか。

 

 ──ロシアはわれわれのナショナリズムを理解し、後ろ盾となってくれる!

 こう映るのは明らかでしょう。

 そしてナショナリズムが善なら、当該のナショナリズムの後ろ盾となる帝国主義・覇権主義についても、悪と見なすことはできないのではなかったか。

 

 今回の戦争を「ウクライナのナショナリズムと、ロシアの帝国主義・覇権主義との対決(=だからウクライナが善で、ロシアが悪)」と捉える解釈は、ここまで来ると根底から揺らがざるをえない。

 ウクライナのナショナリズムには、帝国主義・覇権主義につながる側面があり、ロシアの帝国主義・覇権主義にも、ナショナリズムにつながる側面があるのです。

 くだんのねじれを無視した解釈は、過度に単純化されたものにすぎず、現実の前に敗退すること確実。

 

 ならば、ウクライナ戦争はどう捉えるのが適切なのか?

 大いに参考になるのが、戦前の日本のある政治家の洞察です。

 この先は次回、お話ししましょう。

 

文:佐藤健志

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【佐藤健志氏によるオンライン読書会のお知らせ】

 

 ウクライナ侵攻と関連して、Zoomによるオンライン読書会を下記の通り開催します。

 「強兵なくして主権なし〜ロシアの視点を理解して、日本が取るべき戦略をつかめ」

 

 ◆開催日時:2022年6月18日(土)14:00〜16:00

     講義  14:00〜15:30

     Q&A 15:40〜16:00

※質問多数の場合、Q&Aコーナーの時間を延長します。また参加者全員に録画アーカイブを配信しますので、リアルタイムでご参加いただけない方も安心してお申し込み下さい。

 

解説書籍:『「帝国」ロシアの地政学』(小泉悠、東京堂出版、2019年)

 

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佐藤 健志

さとう けんじ

佐藤健志(さとう・けんじ)
 1966年、東京生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒業。
 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。
 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。
 主著に『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)、『右の売国、左の亡国 2020s ファイナルカット』(経営科学出版)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)など。共著に『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』( VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』( PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年12月、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。
 2019年いらい、経営科学出版よりオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻に続き、現在は『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻が制作されている。

 

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