日本(とくに大阪)がすでに全体主義化していると認めざるを得ない理由【中野剛志】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

日本(とくに大阪)がすでに全体主義化していると認めざるを得ない理由【中野剛志】

適菜収著『ニッポンを蝕む全体主義』を読み解く


作家・適菜収氏の最新刊『ニッポンを蝕む全体主義』(祥伝社新書)が発売早々、新書部門ベストセラーランキングの上位に入っている。暗雲たちこめる日本の今をつぶさに観察し、批評しつづける評論家・中野剛志氏が、『ニッポンを蝕む全体主義』を読み解くヒントとその魅力を語る。


評論家・中野剛志氏。最新刊は『楽しく読むだけでアタマがキレッキレになる 奇跡の経済教室【大論争編】』

 

 著者の適菜収氏は、これまでも、ニーチェやゲーテ、あるいは三島由紀夫や小林秀雄などの思想をベースにしつつ、現代日本の全体主義化に対して、繰り返し警鐘を鳴らしてきた。

 今日の日本が全体主義化しているというのが大げさに聞こえるのだとしたら、それは、全体主義というものに対する理解不足のせいである。本書の第五章や第六章を読めば、日本がすでに十分に全体主義化していると認めざるを得ないはずだ。

 この恐るべき全体主義化を防ごうとしたら、そもそも全体主義というものを、その本質から理解しておく必要がある。

 まず、押さえておかなければならないのは、全体主義とは、近代の産物だということである。

 近代は、前近代的な制度や共同体の束縛から解放された「個人」という存在を生み出した。身分や職業を固定されていた前近代社会とは異なり、近代の「個人」は、自らが進むべき道を決定する自由を得るようになった。

 自由を得たということは、一見すると、幸福なことのように見える。だが、自ら考え、自らの進むべき道を選択するというのは、実のところ、個人に重い負担を課す。一部の人間は、その自由が伴う負担を喜んで引き受けようとする。しかし、多くの人間にとっては、この負担は苦痛でしかない。そこで、自ら考えて選択する重荷から逃れようとして、大勢に同調したり、政治的指導者に判断を委ねたりするようになる。そういう人々のことを「大衆」と言う。オークショットの表現を借りれば、「できそこないの個人」が群れて「大衆」となるのである。

 近代化や自由化を進めれば、全体主義は防げるのではない。その反対に、近代化や自由化が進んだ結果として、「大衆」が発生し、全体主義が生まれるのである。この点が、全体主義の本質を理解する上で、非常に重要である。オークショット、アレント、オルテガ、フロムなど、全体主義の病理を診断した西洋の思想家たちは、いずれも、この結論に達している。それは、本書がその前半で明らかにしているとおりである。

「大衆」とは、自ら判断せずに世論に流され、多数派の価値観に同調して少数派にマウントをとり、そして、政治の強いリーダーシップを求めるような人々のことである。そういう人々が日本中に満ち満ちていることは、言うまでもあるまい。その「大衆」から全体主義が発生するものであり、そして、実際に発生している。恐ろしいことに、現代の日本(とくに大阪)は、全体主義を恐れた西洋の思想家たちが警告したとおりの状況になっているのである。

 ただし、適菜氏が注意を促すように、全体主義は、国や時代によって、「症状」が多少異なっている。「ニッポンを蝕む全体主義」は、その近代史に起因して、西洋とは異なった姿で現れた。そのことを論じるのに、適菜氏は、夏目漱石を手掛かりにしている。

 全体主義は近代化がもたらした現象であるが、漱石が言ったように、日本は、内発的に近代化したのではなく、西洋から受け入れるというかたちで外発的に近代化した。その結果、日本の近代化は、西洋のそれよりも表層的なものとなった。

 内発的に近代化した西洋では、近代化に対する反省や批判も内発的に現れた。そうした反省や批判は、「保守主義」となって近代化の行き過ぎを予防してきた。

適菜収著、最新刊『ニッポンを蝕む全体主義』(祥伝社新書)※上のカバー画像をクリックするとAmazonサイトにジャンプします

次のページ西洋を真似て、突貫工事で近代化しただけの日本では・・・

KEYWORDS:

◆KKベストセラーズ 中野剛志と適菜収の好評既刊◆

 

※上のカバー画像をクリックするとAmazonサイトにジャンプします

オススメ記事

中野 剛志

なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。


この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

ニッポンを蝕む全体主義 (祥伝社新書)
ニッポンを蝕む全体主義 (祥伝社新書)
  • 適菜 収
  • 2022.04.26
思想の免疫力: 賢者はいかにして危機を乗り越えたか
思想の免疫力: 賢者はいかにして危機を乗り越えたか
  • 中野剛志
  • 2021.08.12
楽しく読むだけでアタマがキレッキレになる 奇跡の経済教室【大論争編】
楽しく読むだけでアタマがキレッキレになる 奇跡の経済教室【大論争編】
  • 中野 剛志
  • 2022.03.22