「“マリーヌ・ルペン親子=極右”だと思っている日本人へ」【平坂純一】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「“マリーヌ・ルペン親子=極右”だと思っている日本人へ」【平坂純一】

〜Marine est-elle d'extrême droite ?〜 

 ところで、ルペン一派は社会党ジョスパンを下して、決選投票でド・ゴール主義者のジャック・シラクと戦った2002年以降をピークに、娘のマリーヌが衣鉢を継ぎますが(ここでのイザコザは自伝に譲ります)、マリーヌはEUで溶解した今こそ「強い国家」と「保護主義」を打ち立てて、マクロン大統領の新自由主義的な政策(実は日本よりマシですが)を掲げています。これにはコロナとロシア問題が大きく関わります。  

 まず、コロナでは度々の内政での失策に加えて、「ワクチンの義務化」を進めるマクロンの施策はフランスの国是に反します。また、グローバリズム(この語はフランスではEUを意味します)による人的流動性が、客観的に否定されたのがコロナ問題でした。問題は「右と左」ではなく「上と下」です。つまり、「蓄えがあって、そのお金を世界中で転がして暮らせる人」vs「その日の生活と身の回りのことで精一杯の人」がハッキリ別れた社会の是正をしようとしているのがマリーヌ一派であり、よって、彼女がポピュリストだと揶揄される理由もないでしょう。むしろ、ロスチャイルドの銀行員を経たグローバリズム推進者のマクロンは「若さを活かしたポピュリスト」そのものでした  

  【平坂純一】マリーヌ・ルペン考 「フランス・ポピュリズム」から日本を思う  

  

 「ロシアのウクライナ侵攻」は彼女にとって追い風だと云えます。英米を相対化する外交の策の一つとしてロシアとのパイプは有用です。彼女とロシアと関係が深いのを「悪魔と友達」と囃し立てる日本のマスコミは「女学生の論理」だと思って、見捨てて良いでしょう。否、日本のごとき、アメリカに盲従する奇特な国はマリーヌの爪の垢でも煎じて飲むべきです。マクロンはEUの枠組みで解決したいようですが、アメリカの手先の小僧の話をプーチンが真に受ける筈もありません。停戦後のウクライナの中立化を有利に進めるには、マリーヌを介した方が、ロシアには都合が良いのです。これでもまだマリーヌを極右だと思うのなら、きっと貴方はアメリカから余程の恩恵をもらっている日本語話者なのでしょうね(笑)。  

 彼女はウクライナ問題の仲裁者には適任に思えます。 

 マクロンの焦りや厭戦気分を逆用して、マリーヌは減税や購買力など生活者目線の政策で大鉈を振ったようです。政策は「年金1000ユーロ」を保証し、無駄な戦争を避けるNATO離脱、そして大きな政府による「経済的保護主義」を提示しています。マリーヌの一体どこが右翼なのでしょうか。同性結婚の廃止も至って常識的です。経済は左派的な福祉主義ですし、そもそもヨーロッパにおける「右派」は必ずしも「ナショナリスト」を意味しません。フランス革命を振り返れば、ルイ16世の「暴政」とマリー・アントワネットの「浪費」に対して国民国家を建設せんと企んだのがナショナリズムの源流でした。この民衆の蜂起に「外国の王侯の連帯」を唱えて再占領を試みたのがブルボン王朝の王政復古でしたが、今の時代は何処ででも生きていける大金持ちのエリートが世界中で連帯する「王侯貴族」で、まさにマクロンは古の「右翼」そのものなのです。 マスコミのような都会のブルジョワ様には彼女の台頭は不利益なのでしょう。 

 民衆が生活するお金や、関わりたくもない愚かな戦争にお金を使わされるのを止めようとするマリーヌのような政治家が「極右」とレッテルを張られるのを見て、けらけらと笑っていられるうちが平和なのでしょう。貧困化を目の前にして「大きな政府」を訴える柔軟な政治家も、軍事基地を置くアメリカとの距離をとる綱渡りの外交を目指す「愛国政党」も持たない日本国の、哀れな米帝の奴隷国民の末路は、フランスのプライドを取り戻す動きにも冷ややかなのは道理なのです。Jap.com(by西部邁)は念仏でも唱えているしかありません。  

 マリーヌを政治家に押し上げたジャン=マリー・ルペンの自伝については、またご紹介いたします。  

 

文:平坂純一(ひらさか・じゅんいち)

1983年福岡県出身。中央大学法学部卒業後、司法試験よりも保守思想家・西部邁の私塾に執心する。脱サラしてアウトローの生活を送った後、フランスの保守主義に関心を持ち、早稲田大学文学部フランス語フランス文学コースに再入学。在学中に西部邁の推薦で雑誌『表現者』にて「ジョゼフ・ド・メーストルと保守主義」でデビューする。現在は後継雑誌『表現者クライテリオン』にて、「保守のためのポストモダン講座」を連載中。KKベストセラーズより「ジャン=マリー・ルペン自伝(仮)」を出版予定。

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平坂純一

ひらさか じゅんいち

1983年福岡県出身。中央大学法学部卒業後、司法試験よりも保守思想家・西部邁の私塾に執心する。脱サラしてアウトローの生活を送った後、フランスの保守主義に関心を持ち、早稲田大学文学部フランス語フランス文学コースに再入学。在学中に西部邁の推薦で雑誌『表現者』にて「ジョゼフ・ド・メーストルと保守主義」でデビューする。現在は後継雑誌『表現者クライテリオン』にて、「保守のためのポストモダン講座」を連載中。KKベストセラーズより「ジャン=マリー・ルペン自伝(仮)」を出版予定。

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