「“マリーヌ・ルペン親子=極右”だと思っている日本人へ」【平坂純一】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「“マリーヌ・ルペン親子=極右”だと思っている日本人へ」【平坂純一】

〜Marine est-elle d'extrême droite ?〜 

4月24日にフランス大統領選決選投票が行われる。現職エマニュエル・マクロン氏(44)と「国民連合」下院議員のマリーヌ・ルペン氏(53)。

  

 私は今回のフランス大統領選をある特別な視点で見つめる人間です。候補者の一人である国民連合のマリーヌ・ルペン(1968〜)の父親であるジャン=マリー・ルペン(1928〜)の自伝『メモワール』(仮題。年内にKKベストセラーズから出版予定)を翻訳したのもあり、彼女には親近感がある。かの親子にかけられた誤解を解いておかねば、今回の大統領選を「真っ直ぐに見る」ことは出来ようがありません。何故なら、左は東京新聞から、右は産経まで、未だに「極右政治家マリーヌ」の見出しが並ぶのだから、笑ってしまいました。マリーヌ・ルペンの正しい位置は「経済は左寄りの右派」でしょう。彼女は「自分は右でも左でもない。フランス人の政党だ」と言っています、このギャップはどういう意味でしょうか?  

ジャン=マリー・ルペンの自伝『メモワール』はフランスでベストセラーに。

   今回の選挙戦は混戦です。去年の地方選挙で国民連合(F R)の惨敗や、年明けの20%を割るマリーヌ・ルペンの支持率を見るにつけ、今春の大統領選も第二回投票に行けるのかも怪しく思えました。しかし、現状はマリーヌ23.1%の支持率をたたき出し「惜敗」もしくは「辛勝」の公算が高いのは既報通りです。メランションら左派票の切り崩しに成功すれば、本格的にマリーヌが勝利する見込みがあります。さて、何故「極右がフランスの大統領になるかもしれない」のでしょうか? そして、日本人が彼女を「過激派」と見做さなければならないのでしょうか?  

   皆さんの頭の中にあるトリコロール、セーヌ川、カフェ、芸術・・・「優雅なおフランス」像はそろそろ消してください。今のフランスを取り巻く情報は「インフレによって消費行動が低下している」「年金が少なく、貧困層が拡大している」「イスラム系の移民の一部がテロリストになって暴れている」などのニュースが絶えません。少し前の「イエローベスト運動」(ガソリン代高騰に異議を申し立てる民衆が、ドライバーが携行している黄色いベストを着て暴動に発展した騒ぎ。2018年)を思い出しても、おフランスの香りはほぼないでしょう。  

 何故、おフランスがここまで殺伐とし始めたのか。マリーヌの父であるのジャン=マリー・ルペンが活躍した歴史を振り返って確かめるとしましょう。  

【平坂純一】修羅道を行く フランス保守政治家 ジャン=マリー・ルペン伝  

 

 上記の文章に認めた通り、ジャン=マリーは田舎町の船乗りの一人息子、ナチスの機雷で父親を亡くしています。戦時中、フランスはナチスに占領されていたため、英米向けに仕掛けた機雷だったのでしょう。父親を殺されたにもかかわらず、戦中のナチスの軍人は「紳士的だった」と自伝には書かれています。むしろ、青年ジャン=マリーは英国からラジオ放送で徹底抗戦を唱えていた、自由フランス代表ド・ゴールに対する敵愾心を燃やし始めます。ド・ゴールのけして体を張ることのないエリーティズムに対する怒りは、ジャン=マリーにとって政治活動の原動力でした。  

 かの国が「ナチスに協力しながら戦勝国」で「核武装した国連常任理事国」であるのと、その「おフランス」のイメージは両立しませんね。今でもフランス人に言えば嫌な顔をされます。英米を外交的に懐柔して「再占領」したド・ゴールのお陰だと言われます。しかし国内的にはそう簡単ではありません。例えば、ジャン=マリーは自伝の中で「ナチスの軍人と会話したカフェの店員さんさえ、街中で辱めを受けた」と綴っており、義憤を感じたそうです。これには戦後すぐに「フランス共産党とド・ゴール派」の結託があったと云います。  

 社会・共産党と手打ちをして、他国の支援の下、自国を再占領した国。そう、日本とそう変わらないんですね。鳩山路線を断ち切って、アメリカ宥和政策の「吉田ドクトリン」一辺倒に突き進んだ戦後日本の過激版がフランスです。仮にそれが卑怯な仕打ちだとしても、彼らは自らの手で「戦前を悪」と断罪してみせました。外交が上手な社交の国なので、核武装や国連も丸め込んで「勝ち組」の座を手に入れます。「おフランス」な文化イメージすらも獲得し得たのです。  

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平坂純一

ひらさか じゅんいち

1983年福岡県出身。中央大学法学部卒業後、司法試験よりも保守思想家・西部邁の私塾に執心する。脱サラしてアウトローの生活を送った後、フランスの保守主義に関心を持ち、早稲田大学文学部フランス語フランス文学コースに再入学。在学中に西部邁の推薦で雑誌『表現者』にて「ジョゼフ・ド・メーストルと保守主義」でデビューする。現在は後継雑誌『表現者クライテリオン』にて、「保守のためのポストモダン講座」を連載中。KKベストセラーズより「ジャン=マリー・ルペン自伝(仮)」を出版予定。

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