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【宮台真司】なぜ自民党憲法草案は爆笑ものなのか。憲法学の大家・奥平康弘に学ぶ「憲法の本質」とは

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第6回〉

■「市民から統治権力に対する命令」が憲法

 

 なぜ「表現の自由」が全ての中核か、分かりますか? 僕は「鍵のかかった箱の中の鍵」問題と呼びますが、「表現の自由」が制約されていると、どんな表現を制約されたかさえ表現できなくなるので、僕たちは何が制約されたのかが分からなくなるからです。

 例えば、特定秘密保護法を考えましょう。先進各国にも似た法律がありますが、秘密保護期間についての25年ルールや30年ルールがあって、ルールの適用除外を政治家や官僚が勝手に決められないようになっています。日本ではこれが不十分だから恐ろしいのです。

 隠された文書の、所在を永久に言ってはいけないのでは、僕たちは文書の所在を知りようがありません。その結果、社会の実態、とりわけ政治や行政の実態を知らないまま、思い込みを修正されずに、政治体制とそれを支える党派を是認し、「悲劇」が訪れます。

「法やそれに基づく行政が、憲法の枠内にあるかどうか」を、たとえ事後的にではあれ、人々が適切に判断できるためにも、「表現の自由」がまず第一です。さて、今「法やそれに基づく行政が、憲法の枠内にあるかどうか」と言いました。これが「憲法とは何か」に直結します。

 実際、奥平先生の憲法学がとりわけ強調するのが「憲法とは何か」なのです。共著の『憲法対論』でも「憲法とは何か」を分厚く語っていただきました。日本では「非常識」な人が多いので、「法律の一番偉いのが憲法だ」などと思っていますが、ありえません。

 法律の名宛人は市民です。だから法律は「市民に対する命令」として機能します。対照的に、憲法の名宛人は統治権力です。だから「統治権力に対する命令」として機能します。分かりやすく言えば「市民から統治権力に対する命令」として機能するべきものが憲法なのです。

 

■「表現の自由」と「知る権利」

 

 歴史的に言うと、横暴な王政による「悲劇を共有」した人たちによる「統治権力はこういう枠内で作動しないと困る」という覚え書が、憲法です。人々が思い出せるなら、わざわざ書かなくてもいい。だから、イギリスは立憲政治だけど、成文憲法がないのです。

 関連して、憲法が法律と違うのは、統治権力が覚え書の枠内にあるかどうかを絶えずチェックする営みが存在するべき点。覚え書に書かれていても、チェックの営みがなければ立憲政治じゃない。書かれてなくても、チェックする営みがあれば立憲政治なのです。

 大事なので、もう一度申しましょう。「統治権力に対する市民からの命令」として機能4

しないものは、近代憲法じゃない。では、その市民からの命令によって、市民による統治権力のコントロールが適切になされるために、いちばん必要なものは何でしょう?

 復習ですね。そう。「表現の自由」です。我々は情報を十分に知らなければいけません。統治権力よりも知らなければいけません。だから「表現の自由」があって、それに実質を与えるためにディスクロージャー(情報公開)の必要(知る権利)もあるわけです。奥平先生も重視しておられました。

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CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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