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【宮台真司】なぜ日本では夫婦の「セックスレス」が増加し続けているのか?

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第6回〉


社会学者・宮台真司が、旬のニュースや事件にフォーカスし、この社会の〝問題の本質〟を解き明かした名著『社会という荒野を生きる。』がロングセラーだ。天皇と安倍元総理、議会制民主主義、ブラック企業問題、感情の劣化とAI、性愛不全のカップルの激増、承認欲求が肥大化した現代人の不安……etc.「我々が生きるこの社会はどこへ向かっているのか?」「脆弱になっていく国家で、空洞化していく社会で、われわれはどう生き抜くべきなのか?」。まず社会の問題の本質を直視し、理解すること。そのうえで冷静に物事を判断するための智恵が必要だ。「明日は我が身の時代」を生き抜くための処方箋に満ちた本書から本文を一部抜粋連載して公開する。第6回は「なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか?」。


 

 日本家族計画協会が2014年に行なった「第7回 男女の生活と意識に関する調査」の結果が発表されました(2015年書籍刊行時)。1カ月以上セックスをしていない状態を「セックスレス」と定義し、既婚者について調べたところ、日本の夫婦のセックスレスの割合は44・6%にものぼりました。10年前の調査の31・9%から幅に増えていることが分かりました。なぜ、日本では夫婦のセックスレスが増えているのでしょうか? 夫婦のセックスレスは、世界の「非常識」ですが、日本で「常識」なのは、なぜでしょうか? 日本の夫婦のセックスレス問題の本質を宮台真司が語る。

 

 ■センシティブなクエスチョネア問題

 

 まず、この統計数値を解釈する前提として、社会調査で「センシティブなクエスチョネア」[クエスチョネア=質問紙を使って行なう調査の質問項目のこと]と呼ばれる問題があります。つまり、「微妙な質問だから正直に答えづらい」んですね。

 そもそも、セックスに関する話題が答えにくいうえに、「セックスしていない」などというネガティブな回答が、さらに答えにくい。だから、夫婦のセックスレス割合は、実際にはもっと多いはずです。

 実際、いろんな人たちの話を聞く限りだと、相当多いでしょうね。44 ・6%なんて数字よりも、ずっと多いだろうと想像しています。まあ、そのことを割り引いたにしても、夫婦の半分がセックスレスというのは、他国に比べて断然多い。

 次に、もう一つの前提だけれど、「セックスが必要なのか」と聞かれれば、個別の夫婦がセックスをしようがしまいが、夫婦の勝手。僕にとってはどうでもいい。ミッシェル・フーコーが言う人口学者のように、「産めよ増やせよ」とも思いません。勝手にどうぞ。

 ただ、昔からよく問われる「なぜ日本では諸外国に比べて夫婦間のセックスレスが多いのか」という謎や、「なぜセックスレスが増えているのか」という謎に、社会学者として答えることは、それなりに可能です。

 

■夫婦中心主義がないから弛緩(しかん)する

 

 まず、一つ目の謎。「なぜ日本では夫婦間のセックスレスが多いのか」について答えましょう。これについては昔から問われてきていて、社会学的な回答がすでになされています。一口で言えば「日本的な文化の影響」です。

 日本が核家族化したのは、アメリカやヨーロッパを追いかけてのこと。具体的には1960年代で、団地化や専業主婦化と連動しました。この核家族化のあり方に、実は日本的な文化が反映したんですね。

 アメリカやヨーロッパ、特にアングロサクソンのアメリカとイギリスでは、夫婦中心主義があります。「夜9時以降は子供の時間じゃありません」と無理矢理に子供を寝かせて、「夫婦の寝室に絶対に入っちゃいけません」と言い渡すのです。

 子供をベイビーシッターに預けてパーティに出かけたりもします。要は「子供を隔離して、何とかして夫婦の空間と時間を作る」のです。日本にはそういう伝統がないので、核家族化が、夫婦中心主義ならぬ、子供中心主義でなされたわけです。

 柳田國男が日本の地域社会の特徴として見出したのが、子供中心主義。アングロサクソンみたいに厳しく躾けるのでなく、祖父母が大事に甘やかす。それが核家族化に引き継がれました。だから、夫婦の時空間を作るどころか、いつも「子供まみれ」です。

次のページデートを再現するという処方箋

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CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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