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【宮台真司】「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか?

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第5回〉


社会学者・宮台真司が、旬のニュースや事件にフォーカスし、この社会の〝問題の本質〟を解き明かした名著『社会という荒野を生きる。』がロングセラーだ。天皇と安倍元総理、議会制民主主義、ブラック企業問題、感情の劣化とAI、性愛不全のカップルたち、承認欲求が肥大化した現代人の不安……etc.「我々が生きるこの社会はどこへ向かっているのか?」「脆弱になっていく国家で、空洞化していく社会で、われわれはどう生き抜くべきなのか?」。まず社会の問題の本質を直視し、理解すること。そのうえで冷静に物事を判断するための智恵が必要だ。「明日は我が身の時代」を生き抜くための処方箋に満ちた本書から本文を一部抜粋連載して公開する。第5回は「『ベビーカーでの電車内乗車』に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか?」。


 

 日本民営鉄道協会が調べた2014年度の「駅と電車内の迷惑行為ランキング」を発表しました[ 16の迷惑行為項目の中から「あなたが電車を利用される場合、迷惑と感じる行為を3つまでお知らせ下さい」という質問に対する集計結果]。

「混雑した車内へのベビーカーを伴った乗車」を迷惑だと思うのは、男性の15・8%に対し、女性はなんと30・2%とほぼ倍にもなることが分かりました。

 「車内での化粧」についても、迷惑だと思うのは、男性の16・5%に対し女性は18・5%と女性の方が厳しいことが窺えます。

 どうして女性の方が男性よりも「女性の車内行為」に対してこんなに厳しいのでしょうか?

 

■近代的な公共性を知らない大半の日本人

 

 まず、一般的なお話から。日本で「公共」というと、「行政は何をやっているんだ」問題になりがちで、「ノーマライゼーション」という言葉に象徴される「近代的な」公共性が欠如していることを指摘できます。

 ノーマライゼーションとは、もともとは社会福祉の界隈で使われてきた概念で、非健常者にとってのバリアーを、市民相互のコミニュケーションや助け合いを通じて、いかに解消していくのか、ということを意味するんですね。

 例えば、身体にハンディキャップがあるとか、幼児を連れて電車に乗らなければいけない、そういう事情を抱えた人がいたら、「そういう人は通常の人より重荷を負っているから、自分は電車を一本遅らせても、スペースを開けてあげよう」と思うこと。

 これがノーマライゼーションの本質で、近代の市民社会における公共性の基本原則を表します。日本にはそういう共通感覚がありません。それが、何もかも行政の責任にされる背景であり、国際的に恥ずかしいマタニティハラスメントの背景にもなります。

 さて今日の話題は、こうした話とは違った話です。ベビーカーを迷惑だと思うのは圧倒的に女性が多い。車内の化粧に厳しいのも女性。面白いでしょ。僕が、この理由に当たる、ある命題に気がついたのは、ちょうど援助交際を調べていたときのことでした。

 

■なぜ援交から退却してガングロ化したか

 

 1996年が援助交際のピークでした。96年の夏休みを境に、突然ピークが終わり、すぐにガングロのブームになりました。面白いことに、僕の本に縷々(るる)書いてある通り、これは、女の子が異性の視線をブロックするための工夫でした。

 補足すると、ピーク時までは、影響力があるトンガッタ子たちが援交していたのが、ピーク時に地味な子たちがドッと参入してきた結果、援交が「メンヘラー」的な格好悪いイメージに変化した。それでトンガッタ子たちが援交から退却し、ガングロ化したんです。

 僕は当時、渋谷の道玄坂で女の子たちをつかまえては話を聞いていたけれど、ガングロの子たちは、「え? うちらエンコーやってないよ、やってんのはああいう白ギャル」って言って、たまたま通りかかった白ギャルを、みんなで指さしたものです。

 つまり、髪の毛にメッシュも入れてないし、肌も白い、みたいな「優等生タイプ」の女の子が、男の性的な視線を意識しすぎ、ということで、後ろ指をさされたんですね。並行して、性的にアクティブな子も、後ろ指をさされるようになったわけです。

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CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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