【宮台真司】「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか? |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

【宮台真司】「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか?

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第5回〉

■自分で自分のクビを締める残念な流れ

 

 そこにさらに性的ことがらに対するリアクションが入ってきました。2010年は「SNS元年」「Facebook元年」と言われますが、世界的に「SNS退却元年」でもあります。コミニュケーションの達人たちがSNSから退却していく流れが現に起こっているんです。

 例えば、とてもいい発信力を持っていた大学生女子のアルファブロガーたちが、ブログどころか、SNSまで含めてネットから退却しました。同じタイミングで「ビッチ」という揶揄(やゆ)が始まるんです。昔なら「性的にアクティブな女の子」で済んでいたのにね。

 かつてなら「どうやったらそんなふうに積極的になれるの?」とお手本にされたはずの女の子が、「ビッチ」呼ばわり、「ヤリマン」扱いされるわけで、そうしたコメント欄の荒れに嫌気がさし、素敵なブログを閉じた大学生女子も少なくなかったんですよ。

 誰だってそんな風に言われたくない。だから、濃密な性的リレーションを持っている女性も、昨今では親しい同性に対してさえそれを隠すようになりました。それが基本的なモードになって、性愛に関する知恵が若い女性の間でシェアされなくなっています。

 

■「自分としての自分」から遠ざかる傾向

 

 という次第で、「女性が女性に厳しい」という厳然たる統計的傾向は、公共性を評価する場合にせよ、モテるモテないに関する評価を考える場合にせよ、「同性の仲間たちの反応を、自分の反応にする」という過剰なまでの敏感さに由来するものでしょう。

 精神分析学者ジャック・ラカンは、女が「自分としての自分」としてでなく、いわば「ザ・オンナ」として反応する傾向を、〝男は「自分(男)がこの女に似合いか」と考え、女は「この男が自分(女)に似合いか」と考える〟というニーチェの言葉を引いて表現します。

 それに比べれば、男性は相対的にシンプルだと言えるでしょう。男はやっぱり「おバカ」なんですよ。あっ、これはみなさんの中でも常識ですかね? でも、世の中「おバカ」である方が、主観的にも自由だし、社会的にも望ましいという場合が、あるんですねえ。

 

文:宮台真司 

KEYWORDS:

※上のカバー画像をクリックするとAmazonサイトにジャンプします

CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

オススメ記事

宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

社会という荒野を生きる。 (ベスト新書)
社会という荒野を生きる。 (ベスト新書)
  • 宮台 真司
  • 2018.10.12
どうすれば愛しあえるの: 幸せな性愛のヒント
どうすれば愛しあえるの: 幸せな性愛のヒント
  • 真司, 宮台
  • 2017.10.27
大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112)
大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112)
  • 岡崎 勝
  • 2022.01.25