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【宮台真司】「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか?

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第5回〉

■自分(女)の反応を他の女がどう思うか

 

 女性は一般的に「異性の視線に敏感だ」と言われます。でも、ちゃんと見ると、「異性の視線に対する自分の反応・に対する同性の反応・に対して敏感」なんです。分かりますか。要は「男の視線に対する自分の反応を、他の女が見たらどう思うか」を気にするんです。

 公共性についても同じ。男性が「ベビーカー、別にいいじゃないか」「いや、よくない」という日本的論争をするとき、「だって迷惑じゃないか」「いや、ハンディキャップのある人を助けるのが公共的だろ」って具合に、何が公共的かをベタに議論するでしょう。

 他方、女性は「私だったらありえない。空いてる電車を選ぶ。この時間帯に乗らないよ」となりがち。「私だったら」とか「私のまわりだったら」という具合に、近接的な同性集団内のモード─仲間内モード─を思い出し、そこから評価しがちなんです。

 それは、先の援交の例にも如実に現れています。援交ブームだった頃も、ブームが終わった頃も、女子高生の間で「援交は、イケてるのか、ダメなのか」に関して道徳意識は問題じゃなく、女の子の近隣同性集団内の「視線の圧力」だけが問題だったのです。

「性的に積極的であることがイケてる、とする同性の視線」に反応するか、逆に「性的に積極的であることは過剰だ、とする同性の視線」に反応するか、です。自分としての自分がどっちが良い悪いという話じゃない。まして道徳的な良し悪しの問題じゃない。

 

■同性仲間からの圧力をパッシングする方法

 

 同性からの圧力は大変ですが、そこで僕が指摘したいのが、女性が編み出した知恵です。当時、シノラー[90年代後半、篠原ともえさんが奇抜なファッションと不思議な言動でブームとなり、一部の女性から大きな支持を得た]みたいな自称「不思議ちゃん」がいたでしょ。今なら「腐女子」や「文化系女子」の自称が機能的に等価です。それって何なのか、お分かりですか?

〝「男にモテない」「男が苦手」って同性に見られるのはイヤだけど、本当は苦手〟っていう子がいる場合、「モテもいいけど、腐女子のゲームや文化系女子のゲーム─昔なら不思議ちゃんゲーム─の方が楽しい」っていう風に表明しちゃうと、楽になれます。

「私はみんなとは別のゲームをやってるんです」って。「恋愛できないんじゃなく、恋愛しないんです」って。そうやってプレゼンテーションすると、やがてそれに同調する同性の仲間もわらわら寄ってきて、視線のプレッシャーをスルーできるんですね。

 それを社会学では「パッシング」と言います。つまり、後ろ指をさされそうな状況を、うまくやりすごす(=パッシングする)ために、自分はオルタナティブモードを選んだんだっていう具合に、状況定義をコントロールするんです。

次のページ仲間の視線に敏感になれというメッセージ

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CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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