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【宮台真司】なぜ自民党憲法草案は爆笑ものなのか。憲法学の大家・奥平康弘に学ぶ「憲法の本質」とは

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第6回〉

■なぜ自民党憲法草案は爆笑ものなのか

 

 さて、こういう憲法学の「常識」が分かっているかどうかを測る「ものさし」となる、実に面白いツールがあります。自民党憲法草案です。これを読んだ瞬間に爆笑できるかどうかです。この爆笑ぶりは、憲法学を超えて人文社会科学系の専門家界隈で話題です。

 安倍首相だけでなく、憲法草案の作成に関わった片山さつきのような政治家たちが、「政府を縛る憲法は、王権時代のもの」とマジ顔で語っている。統治権力が非成文であれ憲法縛られているのが、イギリスの立憲君主制だけど、イギリスが王権かよ。大丈夫か?

 東大の法学部を出て、政治家になった。場合によっては官僚を経由して、政治家になった。そんな人たちが、憲法草案の作成に関わっているのに、これまで述べてきたような憲法の「常識」つまり、立憲史と基本原則について、事実上知らない。恐るべきかな。

 王権の時代、例えば近代に直近の絶対王政の時代に、統治権力つまり王が名宛人であるような、王が合意した覚え書なんてあったか? 王権の「悲劇」を繰り返さないことを誓う近代の民主主義社会だから、統治権力を制約する憲法があるんだよ! 小学生からやり直せ!

 

■憲法9条を前提とした合理主義の立場

 

 最後にもう一つ。奥平先生を語る上で、どうしても欠かせないのが、憲法9条の問題です。御存じのように「九条の会」呼びかけ人の一人でした。奥平先生の議論は明確で、情緒的なものではない。きわめて合理的な観点から9条の必要性を語っておられた。

 僕自身は若い時分から、「軽武装・対米従属を脱して、重武装・対米中立を目指す」という観点ゆえに「将来は9条改正をするべきだ」との一貫した立場です。むろん憲法の何たるかを弁えない政治家が跋扈する今の状況では、時期尚早なのは言うまでもない。

 しかし僕のような立場─小室先生や最近の小林節先生の立場ですが─の存在を熟知した上でなおも、理想論としてでなく実践論として憲法9条を前提とすべきだとする、合理主義の立場がありえます。そうした奥平先生の立場を最大限尊重したいです。

 この問題を話すと大変長くなりますし、自衛隊の海外派遣などをめぐり憲法9条の問題が今後激しく動いていくことも考えられますので、今回はお預けということで、また時が来ましたら、まとめてお話しいたしましょう。

 

文:宮台真司

(※書籍『社会という荒野を生きる。』から抜粋連載。つづく…)

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CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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