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国を滅ぼす「戦後の天使」【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」34

 

◆女神の成功とつまずき

 

 彼女は気づいたのです。

 豊かさこそ、アメリカの白い神の大きな魅力であることに。

 そして、かつての富国強兵も、名前のとおり豊かさをめざしていた。

 

 みんなで助け合って、パパの国のように豊かになりましょう! こう言えば、国家を否定したままでも国が治まるんじゃないかしら? 

 それに富国強兵の過ちを正しつつ、良かった点を受け継ぐことにもなる。先代のようになろうとしているわけじゃないと言い訳も立つし、「父殺しの犯人にすがる裏切り者」と後ろ指をさされることも、きっとなくなるわ!

 

 お分かりですね。

 「豊かさへの憧れ」を利用することで、自分の抱える矛盾を一気に解消しようとしたのです。

 

 女神の目算はずばり当たりました。

 先代の神・富国強兵は、一致団結して国を発展させるよう、人々に繰り返し教えています。

 富国強兵の評判は、敗戦によってすっかり地に堕ちてしまいましたが、一度身についた習慣というやつ、そうそうすぐには消えません。

 民意はきれいにまとまりました。

 

 平和と繁栄のために一致団結するならいいじゃないか! ついでにわれわれの目標は富国強兵の再現じゃない、パパの国・アメリカのようになることだ。富国強兵を倒した国のようになろうとしているんだから、国家の否定とも矛盾しないんだ!!

 

 こうして紅い女神は、国家を否定したまま国を発展・繁栄させるという、奇跡のような離れ業をやってのけます。

 1980年代末、昭和も終わるころになると、庇護者だったはずの白い神、すなわちパパまでが押され気味になるくらい。

 

 と・こ・ろ・が。

 豊かになった日本人は、一致団結する必要を感じなくなります。

 さらに富国強兵が滅んでから、早いもので半世紀近く。

 この神に教えられて身についた習慣も失われてゆきました。

 

 あまつさえこのころ、アメリカの白い神は、世界すべてを治めるような勢いを見せます。

 ならば「国家」にこだわる必要もなくなるはず。

 平成に入ったあたりで、民意はこう変わったのです。

 

 戦後の原点は「国家の否定」だったじゃないか!

 ついに、この理想が全面開花するときが来た!

 われわれは十分豊かなんだし、もう一致団結の時代じゃない。これからは個人が自由と自己責任で行動して、世界に広がる市場原理のもと、さらなる豊かさをつかむ時代なんだ!!

 

 紅い女神には、この風潮を否定することができませんでした。

 今まで、国家を肯定しようとせずに国を治めてきたのは彼女なのです。

 それでもうまく行くのかも知れない、とりあえず様子を見よう。女神は自分に言い聞かせました。

 ところが、これがつまずきの始まりとなります。

 

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佐藤 健志

さとう けんじ

佐藤健志(さとう・けんじ)
 1966年、東京生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒業。
 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。
 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。
 主著に『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)、『右の売国、左の亡国 2020s ファイナルカット』(経営科学出版)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)など。共著に『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』( VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』( PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年12月、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。
 2019年いらい、経営科学出版よりオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻に続き、現在は『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻が制作されている。

 

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